第5話 【SIDE アルベルト】アルベルト、父王に激怒される 〜王太子剥奪カウントダウン〜

「この……、愚か者が!!」


 オルテニア帝国の皇帝を歓待する宴の後、自室に軟禁されていた私の元を訪れた父王は、開口一番そう言った。


「あんな大勢の……、しかもよりによって皇帝の見ている前で、無様な醜態を晒しおって……!」

「しかし父上……! 父上も以前、帝国の皇帝など所詮新興帝国の野蛮な若造だと申していたではありませんか! 帝国よりも長い歴史を持つ我々グリンゼラス王家が、へりくだる必要などないと!」

「お前は本当に馬鹿なのか!? そうは言ったが、わずか三年で大陸の三分の二を征服した男だぞ!? ただものであるわけがないだろうが! それに、それと自国の恥をみせるのはまた別の問題だ!!」

「は、恥とは何です!? 恥というなら、あんな地味でみすぼらしい姿で公の場に王家の婚約者として現れたルシェルのほうがよほど面汚しではないですか!」

「お前は……、誠に……」


 私の言葉に、父はがっくりと項垂れ、言葉をなくす。

 ほら、やはり、父だって私の意見に反論しないではないか。

 やはり私がルシェルを退けたのは間違いではなかったのだ。

 たとえ一時、他国の皇帝の不況を買ったところで、今後の自国の繁栄を考えれば些事に過ぎないのだ。


 と、そんなことを考えていたら。


「お前を……、王太子として据え置いておけたのは、ルシェルの存在があってこそなのだぞ……。それを……」

「は? どういうことです?」


 ルシェルがいたから、私が王太子としていられた?

 父が発した馬鹿みたいな話を理解できず、私は父に聞き返す。


「無能なお前でも……、第一王位継承者として臣下たちから許容されていたのは、ルシェルが有能だったからだ」


 そう、父が言うには。

 能力不足な第一王子を、そのまま王太子として据え置くことに赦しを得られたのは、ルシェルという優秀な婚約者の存在があったからこそだ、と。


「そんな馬鹿な……! 私が無能だと……? 私は今まで、何の問題もなく公務をやってきていたではありませんか!」

「それは、重要な公務はほぼルシェルが請け負っていたからだ。ルシェルがお前の教育係と連携をとりながら、徐々にお前ができる仕事が増えるよう調整していたのだ」

「そんな……、馬鹿な……!」


 ルシェルが私の公務を請け負っていただと……?

 あんな、地味で愚鈍な女が?

 信じられない話に私は動揺したが、父はそれに構わず話を畳み掛けてきた。


「このまま、ルシェルが本当に皇帝に嫁いでしまうのであれば、代わりとなる優秀な人物を探さねばならん……。それが無理ならば、最悪――王太子を剥奪されることも覚悟しておけ」

「はっ……? 剥奪……!?」

「仕方あるまい。ルシェルがいなくなったとわかれば、お前の弟のマルセルを王太子にと望む声も増えるであろう。マルセルはまだ幼いが、それ故にまだ教育次第でなんとかなると皆思っているからな」

「なっ……! マルセルは妾腹の子ですよ!」

「しかし王子は王子だ。……わからんのか!? これらは全て、お前自身が招いたことなのだぞ!?」


 父曰く、あの場で騒ぎを起こしてしまったことが、重臣たちの不信感にとどめを刺してしまったらしい。


「あの場に皇帝がいなければ……、いや、せめて、皇帝がルシェルに結婚など申し込まなければ、まだなんとかなったものを……」

「なんとか、とは……?」

「決まっている! あれはお前の妄言だったと事をおさめて、元通りルシェルをお前の伴侶として据えることだ!」

「父上! しかし、私はスレーナを愛しております!」

「愛で王位を保てるならば好きにするがいい! もしくは、お前とそのスレーナとやらで公務を果たせるならな……!」

「果たせます! ルシェル如きにできたことが、私にできないわけがない!」


 どいつもこいつもルシェル、ルシェルと……!

 父の話を聞いて確信した。

 私の能力が不当に評価されているのは、ルシェルが私に正当に仕事を与えなかったからだと。

 ルシェルが、私の仕事を奪い、私の能力を周囲に評価させず、己のことばかりひけらかしたために、今こんなことになってしまっているのだ!


 本当にこの国に害をなしていたのは、まさにルシェルそのものではないか!


 そう考えると、私の取った行動はやはり間違っていなかったと強く確信する。

 ルシェルがいなくなった今、この国を正しい方向に導けるのは、まさしく私とスレーナに他ならないのだから。


「見ていてください父上。私とスレーナだけで公務を果たせれば、何も問題ないのでしょう? そのようなこと、赤子の手を捻るより簡単なことです」

 

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