引きこもりのアイドルアニメオタクがドラクエの世界でドラクエ開発者に出会ったら!?
中村まきこ
第1話 引きこもりのアイドルアニメオタクがドラクエ開発者と出会ったら
わたしが引きこもりになったのは今から10年程前、ちょうど国民的RPGドラゴンクエストのオンラインゲーム、ドラゴンクエストXが発売された頃だった。不安障害という心の病に高校生でかかり、外に出ると漠然とした不安感で押しつぶされそうになって、心臓の鼓動が早くなり吐き気がするという症状が出るようになった。
これはとても辛いことだった。大学の獣医学部に進学するために高校一年生の頃から青春を犠牲にして受験勉強していたのに大学進学どころか大学受験をすることさえできなかったのだ。
外出することが出来なくなったわたしは、ゲームの架空の世界で友達を作り、交流すれば良いと考えたのだった。いや、現実の世界に居場所がなくなり、VRの仮想世界でしか生きていけなくなってしまったのだ。
当時のわたしはニンテンドーWiiのコントローラーを握りしめて、現実世界とアストルティアというドラゴンクエストXの世界の二重生活を開始したのであった。それはドラゴンクエストXが発売してから一年以上が過ぎた日のお話。当時のわたしの家はインターネットの環境もなく、わたしが幸せになるのならと家族がインターネット回線につないでくれた。
「なんて綺麗な世界なんだ。鳥山明先生のキャラが動いている!」
ドラクエⅧ以来の感動がそこにあった。広がる大地。果てしない海と空。初期村にはわたしと同じ初心者が発売して一年が経っているというのに大勢いた。選んだ種族はウェディというイケメンの魚の種族だ。性別は女性にしたけれど。性別に関してはあまり深く考えないで決めた。当時はオーガという種族が火耐性があって強く、わざわざ作り直す人もいたのだが、初心者のわたしがそんなことを知るはずもなく、直感でキャラメイクをしていった。
ドラクエⅩにはチームという機能があり、初心者を中、上級者が導いてくれるシステムがあった。チームに所属すると仲間たちがレベル上げに誘ってくれたり、強いボスの倒し方をおしえてくれたりするのだ。
右も左もわからないわたしを導いてくれたのは一人のドワーフという種族の女の子だった。すぐに中身がおっさんだとわかったけれど、気さくな面白い性格で、いや、面白いということにストイックな性格で、お笑い芸人のような漫才をゲームの中でしてみたりと、変わった人であった。
「◯◯さん、天魔が強くて勝てないから手伝ってくれない? これでエンブレムが10個集まるんだよ」
などとチームの人と協力しながらストーリーをクリアして少しずつ強くなっていった。
わたしはというと、面白いことも言えないつまらない性格で、真面目にレベルを上げて金策やレアドロップ集めにも励み、ハイレベルな装備に身を包んで強いボスを倒す、当時のアストルティアのトップクラスのプレイヤーとなっていた。
「◯◯さん、バズズのコインが当たったからみんなでいこう!」
「じゃあ、武闘家2人、僧侶2人でいいかな!」
当時はひらたという、ひらめきの指輪を装備したタイガークローをする武闘家が強くてどこもかしこも無法者シリーズという武闘家などが装備できる最強クラスの防具を着ることがステイタスだった。バズズというボスはひらめきの指輪の上位互換を落とすので、強くてもチャレンジしてみたいボスだったのだ。
そうやって、だんだんとゲームの世界で他にも仲間ができた。わたしとは違うが身体の病気で現実世界で苦労している高齢の方、病気で働けなくなってしまった若い方などがいた。たまたま同じような境遇の方と波長があったというのもあるかもしれないが、もしかすると仮想世界というのは病人にとってもう一つの居場所になるのかもしれない。ゲームの世界なら自由に歩けると言っていた方もいた。
わたしも現実で何も出来ない分、有り余ったエネルギーがネットゲームに注がれたからトップクラスのプレイヤーになれたのだと思う。
ここで、初めての彼女もできた。当時10代の高校1年生くらいの年齢だったので、現実だったらかなりやばいロリコンである。彼女は難病を患っていて、それが原因で両親がいなかった。それでもおじいちゃんとおばあちゃんと兄と、力強く生きていた。
トロいと自分で言っていたけれど、それは体が悪くて思うように操作できなかったり、目が悪いために、画面が見えにくいせいだった。
だけれど、とても心が綺麗で、芯が強く、口喧嘩なら負けないからねと言っていた。ひやひやすることもあったが、関西の娘らしく、どんな苦難や悪口にも負けない女の子だった。そんなところに惹かれていた。
ゲームの世界では常に彼女はわたしの後ろをついて周り、いろんなアイテムを手に入れたり、攻略を手伝ったりしていた。成人式まで生きられないかもしれないと言っていたが、ドラクエと仲間がいたから生きられたと語っていた。何度も手術や入院を繰り返して、同い年の女の子と比べてとても辛いだろうなと思っていたのだが、悲惨さはなく、自分の人生を受け入れている女の子だった。
自分の境遇をなかなか受け入れられないわたしの方が子どもだと感じることが多かった。わたしの後ろが自分の居場所だからね、と語っていたことが今でも忘れられない。
一方で当時のわたしはとにかく早く死にたくて、早く時間が過ぎるように祈って生きていた。長生きなんかしたくない。わたしには何もできないし、何も作れないから、早く死にたかった。人並みに学校へ通ったり、就職することもできない苦しみは耐え難かった。人間の社会において、外出できないのは死んでいるのとほぼ同じことで、リモートワークなどが主流ではない当時の日本では居場所がなかった。怠けているのではなくて普通のことができないから堕ちていくのは辛い。
そんなわたしが当時ハマっていたのはドラクエXとアイカツ!という子ども向けのアニメだった。アイカツ!とは主人公の星宮いちごがスターライト学園というアイドル育成学園を舞台にトップアイドルを目指すという物語のアニメだ。アイカツ!には夢や希望が詰まっていて、主人公がアイドルを目指して頑張る姿が眩しかったから、爆発的な人気を獲得し、アイカツ!を遊ぶ大人をアイカツおじさんと呼ぶほどだった。
そんな話をおっさんドワ子(ドワーフの女の子の通称)にすると、
「君もアイカツ!を作ってみればいいじゃないか!」
と言われてしまった。初めてその言葉を聞いた時は意味がわからなかった。
「僕はね、ドラゴンクエストシリーズの開発者なんだ」
ネットの世界ではなんとでも名乗れるので最初は信じていなかったが、面白さを追い求める姿勢は凡人離れしており、もしかしたら、と思わせる力があった。なにより、業界の人間でなければ知らないような裏話をたくさん知っていた。
そんなクリエイターと話をしているうちに、自分もアイカツ!みたいな、アイドルが活躍する子ども向けの話を書いてみたいと思うようになった。でも、自分が玩具会社に就職できるはずもないし、アニメーターになることも引きこもりでは無理だった。
「小説か……」
唯一できそうなことといえば、小説を書くことだった。そう!
小説を書くことだ!
わたしは次の日からドワ子の弟子となってドラゴンクエストの面白さとは何か、ドラゴンボールの面白さとは何かを徹底的に叩き込まれた。モンスターの動きひとつひとつにも開発者のメッセージと意味がある。
開発者さんの裏話は色々な方面に迷惑がかかる可能性が高いのでできないが、話せそうなエピソードもある。電撃文庫で人気の『俺の妹がこんなに可愛いわけがない』という作品をドラクエ開発者さんが好きで、それは、妹の小説をアニメ化する会議に主人公が押しかける場面が刺さったと言うのだ。
開発者さんもスクウェアエニックス本社へ行ってDS版ドラゴンクエストⅣ(リメイク)のここを変えたいというポイントを主張しに行ったのだという。結果的にそれは認められて、ゲームも大ヒットしたのだけれど、ドキドキしたと言っていた。それはそうだろう。下手をしたら会社での立場が危うくなる。その場面が俺妹の作品と重なったのだそうだ。
わたしも勉強しながら小説を書き始めた。ドラゴンクエストXは休止すると言ったら、フレンドは快く了承してくれた。みんな作家になることを応援してくれたのだ。ペンネームにはドラゴンクエストXの世界で出来た彼女の名前をつけることにした。彼女が生きた証のようなものを残したかったのだ。
師匠とはトークアプリで連絡をとりながら創作のいろんなことを教えてもらった。よく言われたのはタダで文字を書くなということである。いわゆるSNSを作家はしない方が良いというものである。プロの作家を目指すなら、自分の文章がタダで読めてしまうSNSは辞めた方が良いという意味らしい。なんというか、プロ魂を感じる言葉だ。言葉に重みがある。
そして、体を壊したことが原因でその頃はすでにゲーム会社を師匠は辞めていて、わたしより少し年上でいわゆるニートをしながら塾で働く準備をしていた。その頃に某ゲームの仕事が入ったから取材を手伝ってくれと言われたこともある。そのゲームがのちにドラゴンクエストライバルズだとわかるのだけれど。イラストレーターとして採用されたらしい。師匠は塾の仕事にも無事に内定して、生徒の進路指導アドバイスとトイレの掃除などの雑用をしていた。そこで、師匠も女子高生を好きになるのだが、創作の他に恋愛の話も師匠とよくしていた。
こういうと亀仙人のようなスケベ師匠みたいだが、教えることはしっかりしていて、主にドラゴンボール編集者の鳥嶋さんのインタビュー記事で勉強になりそうなものや、ゲーム業界のこと、塾での出来事などを話してくれた。
塾ではアドバイスしている魔法少女まどかマギカの暁美ほむらちゃんに似ている女の子のことが好きらしく、彼女が美術系の教育大学に進学するために特製の参考書を作って教えてあげるなどかなりの力のいれようだった。
外見が好きという単純な話ではなくて、まあ、もちろん男なのでそういう面もあったろうが、心が綺麗で好きになったと言っていた。その娘はよく、アニメなんて見てないで現実を見ろと言われるが、醜い現実を見飽きているから、美しいアニメを見るのだと言っていたそうだ。わたしは直接会ったことはないが、その言葉がとても印象に残っている。
そうこう努力しているうちに処女作が完成した。
そうして初めて書いたアイドルが登場する小説はVRのゲームの世界でアイドル活動するというものだった……予選を通過したものの残念ながら受賞にはいたらなかった。とても悔しい思いをした。健康で大学に通っていろんなことを勉強していたらもっと違う結果だったのかもしれないのにと、唇を噛んだ。
その後に何度落選が続いても、わたしはひたすらアイドルものの小説を書き続けた。アイカツ!とドラクエの師匠がいたからできたことだ。そうして出来上がったのは『異世界アイドル活動!』なんとこれが集英社さまのマンガ原作コンテストを受賞した。自分にとっては初の受賞作品となった。ここに来るまでに5年近くがかかっていた。
「集英社仲間だねというと、厳しかった師匠が初めて笑った」
それと同時に、限界も感じていた。様々なことを学ばなければ自分の才能では小説家としてやっていけないと感じたのだ。
そして、2023年、大好きだった親代わりの大叔母が亡くなった。ゲームの世界のフレンドたちも重い病と闘っていたから入院したり、連絡がつかなくなってしまった方もいた。わたしの彼女とも連絡がつかなくなってしまった。連絡などは一切なく、ある日突然全くログインしなくなるのだ。みんな自分たちの人生を頑張って生きている。そんな中で、今、わたしも歩み出そうと思った。夢だった大学進学を叶えようとしているのだ。通信制だけれど。通学制は通えないから仕方ない。新しくできるという文芸を学ぶコースでもう一度、一から小説を学びたいと思った。それか、通信制大学でAI(これからはAIが書いた小説が新人賞などを受賞する未来にもなりそうですよね)や動画編集など新しいことを学んでいろんなことにチャレンジしてみたいと思っている。これはドワンゴ様に忖度しているわけではなく、理系の分野が学べる通信制大学というのはめちゃくちゃ珍しく、貴重だからである。N高校の生徒がドラゴンクエストXの世界を旅行していたのも印象に残っていた。ZEN大学はサークル活動などもネットで出来るらしいのでとても興味深い。
もうドラゴンクエストのトップクラスプレイヤーではなくなったけれど、今でも開発者さんたちの夢がいっぱいつまったドラゴンクエストはトップクラスに好きなゲームだ。
次はプロの書籍化作家になって、このゲームを遊べる日を夢見て頑張っていきたい。
そして、彼女が生きた足跡を一人でも多くの人に見せたいのだ。師匠と一緒に。
(了)
引きこもりのアイドルアニメオタクがドラクエの世界でドラクエ開発者に出会ったら!? 中村まきこ @Makiko_Book
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