始業前にて

 翌日、席に着いていた菜々美ななみの前に、ちょうど登校してきたここねがやってきた。


「おはよう、柏木かしわぎさん」

「おはよう。部活どうだった?」

「うん! 楽しかったよ」

「良かったわ。ごめんなさい、いきなり帰って」


 申し訳なさそうに言う菜々美に、ここねは気にするなと笑う。


「ううん。言いにくいことだってあるもん。仕方ないよ」

「ありがとう、そう言ってもらえて安心したわ」


 菜々美の目元が緩むと、それを見たここねはニコリと笑う。


 そんなここねの頭を撫でてみたい衝動に駆られる菜々美だったが、慌てて目を逸らして耐える。


 ちらほらと生徒が集まってくるこの時間。いまいちどういった空気でいればいいのか分からない。


「なんか外が騒がしいわね」

「え? わ、ほんとだ。どうしたんだろ?」


 とりあえず騒ぎに乗っかってみたけれど、二人とも動こうとしない。ここ数日で理解した。騒ぎはだいたい水原涼香みずはらりょうかによるものだと。


 被害を広げぬため、こうして大人しくしているのが吉。


 何人か廊下に出たのを見送り、再び目が合うとここねが笑う。


 自然と菜々美も笑みを浮かべる。


 どことなく甘い空気がその場に漂うのだった。

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