昼休みにて 5

 突然、他の誰にも聞かれまいといった様子の菜々美ななみに、自然とここねも声を潜めてしまう。


「大丈夫って……どういうこと?」


 困惑気味に、だけど真剣に、菜々美がなにを伝えようとしているのか解ろうとしてここねは聞く。


 聞き返されて、言葉足らずだったなと少し反省しながら、もう一度周囲を見回してから答える。


「他の人に、その……失望されたり、してないのかなって」


 絞り出すような声音で言う菜々美の目は僅かに伏せられており、なにかに耐えているようにも見えた。


 なにを思って心配しているのかは、その様子を見たここねには少しだけだが理解できる。


 たから返す言葉はある――のだが、ここねはそれよりも、少し苦しそうな菜々美の方を心配してしまう。だから菜々美の苦しさを少しでも和らげてあげたい、そう思ってしまった。


柏木かしわぎさんって、優しいんだね」


 お世辞でも、返答に困ったからでもない、純粋な気持ちを込めて言う。


「……優しくなんてないわよ」


 だけどその気持ちは伝わらない。伝わらなくても、いつか届けばいい。


「ううん。だって、水原みずはらさんが傷ついていないのかなって、心配してるんだもん。水原は大丈夫だよ」

「でも、本当は違うのかもしれないわ」

「そう思うのなら、柏木さんは水原さんと変わらずに接すればいいんだよ」


 ここねが座る位置を一段上がる。


 少し距離が近づき、不安に揺れる菜々美の顔を覗き込む。それに気づいた菜々美も、ここねから目を逸らさない。


 そして――。


「あーん」

「⁉」


 突然、お弁当のおかずを口の中にねじ込まれた菜々美だった。

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