昼休みにて 4

 入学後三日。その日以降、まるで流行りが去るかのように、徐々に水原涼香みずはらりょうかの話題は消えていった。そして完全に話題が消え去ったと同時に、一年生全生徒の中で『水原涼香には気をつけろ』という標語ができた。


「あら? 菜々美ななみとここねではないの、一緒にお昼を食べましょう」


 菜々美とここねが、外でお弁当を食べようと、誰も来ないであろう校舎裏の階段で座っているとなぜか手ぶらで現れた涼香。


「えっ……と……いいけど……?」

「なにしにここへ?」


 誰も来ないであろう場所を求めたのに、なぜかやって来た要注意人物水原涼香


「どうしてと言われても……どうしてかしら?」

「「えぇ……」」


 なぜ本人が分からないのか。よく見ると、涼香のサンダルが片方だけ無いのだ。


 恐らく、滑って転んだ矢先にどこかへ飛んで行ってしまったのだろう。


「サン――」

「あっ⁉ 私急に思い出したわ!」

「……なにを?」

「適当に考えておきなさい」

「えぇ……」


 そう言って踵を返す涼香である。


 校舎に戻った涼香を見届けた菜々美とここねは、再び二人になった。


 今日、この場で食べようと誘ったのは菜々美だった。


 もう入学して一週間は経っている。それぐらいの期間があれば、この位はできるようになる。といっても、入学してから毎日一緒にここねといたからだろうが。


「えっと……話ってなにかな……?」


 いつもとは違う。少し緊張した面持ちのここね。菜々美から「少し話したいことがあるから、お昼は違う場所で食べましょう?」と言われ、ついてきた先が人のいないこの場所だ。


「え……あの……食べながらでもいいかしら?」

「あ、うん。そうだよね、時間があるし」


 二人は階段に二段離れて座っている。上の段に菜々美、下の段にここねだ。


 互いに、持って来た弁当箱を膝の上で広げる。


「今日はお弁当なんだね」

「毎日じゃないけどね」


 手を合わせておかずを摘んで、半分程無くなった時、菜々美が声を潜めて言う。


「水原さんって、大丈夫なのかな?」

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