体育の時間にて 4

 菜々美ななみが体育館へ戻ると、何事もなかったかのようにドッジボールが再開されていた。


 さすが女子校というべきか、ドッジボールの迫力は共学だった中学より苛烈だ。


 とりあえず体育教師に報告して、菜々美は外野から入ることにする。


「お帰り、柏木かしわぎさん」


 すると、ボール当たっていたのだろう。外野にいたここねが声をかけてくれる。


「ええ、ただいま。その……どうだった?」

「どうって……?」


 戻って来た時の空気が、菜々美の予想していたものとは違いホッとしたが、自分が保健室へ涼香りょうかを連れて行っている間、この場の空気がどうなっていたのかが気になる。


「いえ、やっぱり大丈夫」

「そっか?」


 ただ、わざわざ聞き出さなくてもいいなと思い直し、なんでもないと切る。


 どういったことが起きていたのかは分からないが、なにも無ければそれでいい。


 こんな心配事、杞憂でいいのだ。


 

 それから三限目の体育は終了した。全部で三回対戦して、菜々美達三組は一勝のみだ。


 そして今は十分間の休憩時間中。まだ四月だが、全力で動けば少しは汗はかくもの。何人かの生徒は外の風に当たりに行っている。


 浮かない顔をして、体育館の隅っこで水分補給している菜々美にここねが話しかける。


「柏木さん、大丈夫?」

「大丈夫よ」

「それならいいんだけど……やっぱり体調悪いのかなあって」


 そこまで心配してくれるのなら、いっそのこと相談してしまった方がいいのかもしれない。


「ねえ、芹澤せりざわさ――」


 意を決して、ここねの名前を呼ぼうとした瞬間、体育館内が一気に騒がしくなる。


 この騒めきの原因、それは間違い無く彼女だ。


「戻ったわよ!」


 四組の生徒達が帰って来た涼香の下へ向かう。


 すっかり言うタイミングを逃してしまった菜々美。涼香とそれを取り囲むクラスメイトとの空気が、菜々美の恐れていた空気出ないことに安堵する。


「柏木さん?」

「ごめんなさい、大丈夫よ」


 自分の心配が杞憂に終わった菜々美。これで、少しは心が晴れるのだった。

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