体育の時間にて 2

菜々美ななみって見た目の割に残念だよな」


 中学の時、何気ない日常会話。当時付き合っていた彼氏に告げられた一言。


「菜々美ってほんっと見た目だけだよね」


 これは比較的仲の良かった友達からだったか。


柏木かしわぎさんってそういうキャラなんだ……」

「イメージと違う」

「あー残念……」

「見た目と違って話しやすいね」

「そういう人だったんだ」


 人によってはその程度のこと、しかし菜々美にとっては心に深く突き刺さったこと。



 時間が止まった体育館で、自分の鼓動だけが動いている気がする。


 視界の先には綺麗に転んでいる水原涼香みずはらりょうかの姿がある。あっけにとられた周りの生徒、次に聞こえる音がなんなのか、菜々美は知っている。


 それを聞いて涼香はどうするのだろうか。


 あの一斉に自分を見る目が変わる空気――菜々美が未だに吸っている空気。


「大丈夫?」


 その菜々美の一言で、止まっていた時間が動き出す。


「大丈夫か大丈夫でないかと言われれば……大丈夫ね‼」


 そう言って立ち上がった涼香がフラッとバランスを崩す。


 慌てて菜々美が支えに向かい、他の生徒もやって来る。


「先生!」


 誰かが体育教師を呼ぶ。


「涼音がいっぱいよ……」


 目を回している涼香がなにか言っているがそれには構わない。


 とりあえず体育教師の指示で保健室へ連れていくことにする。誰が連れていくのか、それは四組の生徒なのだろうが、誰が運ぶかなんて今はそれどころでは無い。


「私、連れていきます」


 だから菜々美は涼香の肩をとって、涼香を保健室へ運ぶことにする。

 

 逃げるために。

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