下校時にて 6
定期は買っているため、途中で降りる必要はないが、昨日より帰るのが遅くなった。
殆ど日が沈み、外では街灯が目立つ。
小動物のようなあの可愛い生徒――ここねの顔を思い浮かべる。高校に入って始めてできた友達。他の生徒達は軒並み
最寄りの駅に電車が到着して、他の乗客と一緒に菜々美も吐き出される。
流れに乗って改札を出て、そのまま歩こうとした時――。
「あれっ、菜々美じゃん!」
「ひぇあ!」
「相変わらずいいリアクションするねえ」
慌てて振り返った菜々美の目に入ってきたのは、菜々美の通う中学からの進学者が多い高校の制服を着た一人の女子生徒だった。
「え、あ……
「よかったまだ忘れられてなかったわ――お?」
大げさに胸を撫で下ろす仕草をした杏の目が、菜々美の手元に向けられる。
その視線に気づいた菜々美が慌ててクッキーを隠したがもう遅い。
「なになに⁉ まさかもうモテちゃったの! うわあーさっすが菜々美! 第一印象は最高の女!」
「うっ……」
「相手は新入生? もしかして先輩?」
「違うから……!」
菜々美は否定するが、杏は訳知り顔で菜々美の持つクッキーを取り上げる。
「照れなくてもいいって! おおー、綺麗なクッキー。ラッピングも綺麗だし」
「返して!」
菜々美が取られたクッキーをひったくる。
「なんだよもー。そんなに大切ってことは、もしかして菜々美も? 相手は女の子でも別にいいんだけど、幻滅されないように頑張りなよお、ほら、アイツの時は最悪だったじゃん? ほんっとアイツ顔だけだよなあ……。あっ聞いてよ! アイツ顔だけはいいから早速女の子寄ってきたの、それでさ、あ、私も同じクラスなんだけど、同中で同じクラスなの私だけなの。それでさ、モテるはどうのとか自慢してきてさ、でもやっぱり顔だけなら菜々美が一番だよなあとか言ってくんの。まあじ最悪、そんなこと言いながらも他の女の子と一緒に帰ってたんだけど!」
津波のように押し寄せる友人の言葉に、菜々美の頭の奥底に沈む嫌な記憶が浮かび上がる。
「――ごめんなさい! ちょっと用事があって!」
このままではマズい、強引に話の腰を折った菜々美は杏との距離を離す。いつでも逃げだせるように。
「えー、そっか、じゃあ仕方ないよね。じゃあまた」
帰る方向が違ってよかった、菜々美は手を上げると急いでその場から逃げ出す。浮かび上がる記憶を見ないで済むように全速力で駆ける、なにも考えなくて済むように。
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