第51話

 買収の処理としては、ヘキサゲームスの出資で、新たな会社を作り、「エンゲージケージ」チームを移籍させることになった。

 社長には戦闘班リーダーだった生駒が就任した。

 生駒はずっと「ヒロイックリメインズ」担当だったが、ヘキサゲームス側がその才能を欲して強引に呼び寄せたのであった。

 久世と木津も新会社の所属である。

 一方、「ヒロイックリメインズ」はそのまま開発、運営を続ける。そして、「ヒロイックリメインズ」チームはノベルティアイテム唯一のゲーム部門として存続するのだ。

 この事態に不満を持つ社員は多く、「ヒロイックリメインズ」チームのメンバーは退職を決意する者が続出する。

 天ヶ瀬社長も早期退職制度を定めて、通常より退職金が多く出るようにし、退職希望者を支援した。一方で、リスタートする意志を固めて、新たな人材募集を行っていた。

 100人以上がいたオフィスも、今では閑散としていた。

 なんとか「ヒロイックリメインズ」の運営を続けるだけの人数だけが残っていた。

 かつての熱意もなくなってしまったので、外注を使って、あまり残業しない仕事のスタイルを取っている。

 そのため、まったり仕事ができるようになり、残ってよかったと思う社員もいる。新天地にいくリスクを取るより、働き慣れた場所はやはりいいようだった。


「小椋、ちょっといいか?」


 天ヶ瀬社長がふらっと小椋の席に現れる。


「どうしました?」

「今度、イベントやるんだが任せていいか?」

「はい、他にやる人いませんしね」


 新規イベントの上流工程のようだった。

 どのような内容にして、どんな仕様、どんなストーリーにするか。今残っているメンバーだと、シナリオを担当している文見がやるのが一番よいように思えた。


「助かるよ。主役クラスの声優は全員呼ぶから楽しみにしてくれ」

「あ、新規音声撮れるんですね!」

「いや、収録はしない。イベントだからな」

「へ?」


 社長との会話が成り立たない。何か思い違いがあるようだった。


「もしかして……リアルのイベントですか?」

「ああ。リリース後大きい広報をやれてないから、そろそろ派手なのをやろうと思ってな」

「そうでしたか。いいですね!」

「じゃあ、衣装のサイズを合わせておいてくれ。そういうの得意なんだろう?」

「へ……?」


 かみ合い始めた話がまたズレていく。


「メイの衣装。前に届いただろう? 秋葉原のホール借りて、声優呼ぶから、小椋がそれ着て司会をやってほしい」

「えええっー! ……あ、ごめんなさい」


 社長を前にしてさすがに大声を出しすぎてしまった。


「必要なものがあれば申請してくれ。あとで立替精算してもいい」


 社長はそれだけ言うと自分の席に戻ってしまった。


「あ、ああ……どうしよう……」


 あまりに驚きすぎて断ることができなかった。

 当然、恥ずかしい思いをしたくない。でも、声優と再び会えるというのは魅力的だった。


「でも、チャンスなのかな……?」


 会社のお金を使ってコスプレできるのも、もしかしたら悪くないのではないかと思えてきた。


「踏み込めないなって思うのは経験したことがないから。思い切って飛び込めば案外たいしたことなかったりする……。そして、新たな道が開かれたりする……」


 自分がゲームをしたり、コスプレを始めたりした結果、こうしてゲーム会社に入り、普通の人には体験できないことやっている。

 ここで再びコスプレをしてイベントの司会を見事務めれば、さらに道が広がるかもしれなかった。

 会社も仕事もめっちゃくちゃだが、今目の前には、自分にしかない大きなチャンスがある。


「ここまで来たらやってみるか! SSR出ますように!」


 どうせもう失うものはない。人生は一発逆転ガチャなのかもしれないと思ったところに、会議をしていた門真が戻ってくる。

 門真はノベルティアイテムに残留して、まだ文見の下でシナリオを書いている。


「なにかガチャ引くんですか?」

「ふふっ、いいキャラ当たりそうなんだ」

「えー! なんのゲームですか? 俺も引きたいです!」

「そのうち分かるって!」

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