14章 崩壊と再生

第50話

「皆、すでに知っているかもしれないが、『エンゲージケージ』をヘキサゲームスに売ることになった」


 ついに朝礼で社長が正式に買収の話をした。


「『エンゲジ』に所属しているメンバーはそのままヘキサゲームスに移ってもらう。先方は『エンゲジ』チームを高く評価しているので、待遇は安心してほしい」


 社長を前にしてあまり喜ぶところではないのかもしれないが、歓喜の声があちこちで上がる。


「しかし、『ヒロクリ』はこのままノベで開発、運営を続けることになる。『ヒロクリ』メンバーはこれからも私たちを支えてほしい」


 しーんと静まり帰る。

 社長が何を言ったか社員たちは分からなかったのだ。

 誰かが手を挙げて言う。


「すみません、もう一度言ってもらってもいいですか?」


 社長は咳払いをして言う。


「『ヒロクリ』メンバーはヘキサゲームスに移れない。このままノベルティアイテムに残留だ」


 あちこちで叫び声が上がった。


「なんで!? ひどい!」

「俺もヘキサに行かせてくれよ!」

「私はどっちのチーム? 残ることになるの?」

「やめてよ! 差別じゃない! みんなで移ろうよ!」


 まさに阿鼻叫喚だ。

 みんな、「ヒロイックリメインズ」はサービス終了して、社長、役員以外は「エンゲージケージ」ごとヘキサゲームスに移るのだと思って疑わなかった。

 どちらのチームに所属していたかで環境が大きく変わる。

 ノベルティアイテム残留になったら、沈みかけの「ヒロイックリメインズ」と運命をともにすることになってしまう。


「よし、俺は『エンゲジ』一筋だったからな。ヘキサ行きだな!」


 と、久世が言う。


「『ヒロクリ』も手伝ってたじゃない」


 木津がツッコミを入れる。


「そりゃ、だいたいのやつがそうだろ! でも俺は一貫して『エンゲジ』だから! 勝ち組だ! 木津はどっちなんだ?」

「『ヒロクリ』にもいたけど、結局『エンゲジ』に戻って来てそのままよ」

「よし、一緒に移籍だな! ……って」


 二人が盛り上がっている横で、文見は小さく震えていた。


「あたし、ずっと『ヒロクリ』……」


 文見が最初から最後まで「ヒロイックリメインズ」チームだったことは社員全員が知っている。

 社長の発言は、泥船に残るか、ノアの箱舟に移れるかの審判だった。

 困難な新プロジェクトを成功に導いた立役者がまさにこんなに遭うとは思わなかった。


「あたし死ぬのかな……」

「死なない、死なない! まだノベが潰れたわけじゃないから!」

「そうよ。『エンゲジ』を売ってお金があるから、絶対に潰れないわ」


 二人は必死に文見をフォローする。

 一瞬にして人生が書き換わる。

 大成功か大失敗か。まるでガチャのようだった。

 社長は厳粛な朝礼で社員たちが大騒ぎしているのを止めなかった。自分の言動で社員たちの運命を変えてしまうのは申し訳ないと思ってはいたのだ。

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