第39話

 トラブルはすぐに起きた。

 「エンゲージケージ」の新イベントが不評で炎上してしまったのだ。

 新たに追加になったイベントは一見新作に見えるが、その中身は過去イベントの流用でできていた。

 「エンゲージケージ」のイベントは凝っていて、進め方やポイントの稼ぎ方を毎回少しずつ変えるのが売りだった。しかし、「ヒロイックリメインズ」を手伝っていて余裕がないので、同じシステムを流用して、シナリオだけ新規で入れることにした。

 だがユーザーにはそれが許せない手抜きに思えたようだ。

 しかし、業界的にはそれくらいは普通のことで、文句を言われる筋合いはない内容とされている。普通に遊べるし、クリアしたご褒美はちゃんと提供している。

 批判コメントは次のような感じである。

 

「最近『エンゲジ』のイベント、レベル低くね?」

「新しいゲーム開発に人取られて、『エンゲジ』に誰もいないんじゃ?」

「ありそう。明らかに手抜きだよね」

「バグもあったしな」

「このままサ終?」

「しばらく様子見たほうがいいね」

「いますぐ『ヒロクリ』の開発やめろ!」

「俺たちの『エンゲジ』を返せ!」


 身内からすると、かなり身勝手な内容に見える。こちらは精一杯頑張っているのだ。


「ああ……。セルラン下がってる……」


 文見はセールスランキングを見て嘆く。

 それが会社の業績、自分の給料に思いっきり影響するので、やはり下がっているとショックを受けてしまう。


「『ヒロクリ』も期待度かなり下がってますよ。やばいです」


 半ば面白そうに門真が言う。

 疲弊しすぎて、こういう話題が逆に楽しくなってしまっている。


「品質下げないように頑張らないだね……。その前にリリースできるよう死守しないと……」


 「ヒロイックリメインズ」はゲームとして、だんだん形になってきている。

 キャラのモデルも完成し、ゲーム中で派手に動き回っている。シナリオも前半部分は完璧に入っているので、普通に新作ゲームとして楽しむことができた。

 ただ、まともに動くの序盤だけで、全体的には完成度が低く、不具合だらけで進行不能な部分ばかり。これが7月にリリースできるとは誰も信じていなかった。


「このままじゃ中国系のゲームにひき殺されますね」

「中国系?」

「セルラン見てないんですか?」

「え、見てるけど中国のゲームなんてあった?」

「上から5つ、全部中国製ですよ」

「え? これ日本製じゃないの!?」


 中国製のゲームというと、よくSNSの広告に出てくるような低品質なゲームが思いつく。

 非常に面白そうなゲーム性に見えて、実際ダウンロードしてみるとまったく別のゲームだったりする。ピンを抜いてお姫様を助けるゲーム、大勢のゾンビを倒していくゲームなどのバリエーションがある。広告詐欺などと言われるもので、まっとうなゲームとは思えないジャンルだ。


「これって絵が日本っぽいよね? シナリオはテレビゲームみたいにボリュームすごいって聞いたけど」

「それが今の中国のゲームなんです。日本市場をよく研究していて、日本人好みのキャラやシナリオが入ってます」

「そうだったんだ……」


 そこには文見が去年、研究のためにプレイしたゲームもあった。

 どう見ても日本の大きな会社が作ったような品質で、日本製だとまったく疑わなかった。


「中国の人が日本と同じようなゲームを好むようになったんでしょうけど」

「そういう意味では、日本のゲームやアニメの影響なのかな? 日本しか作れなかったものが、海外でも作れるようになったのはちょっと嬉しいのか悲しいのか……」

「悲しいですね。今や物量じゃ中国には勝てないですよ。動いているお金と人数が全然違います。何十億もかけているスマホゲームもあるとか言いますし」

「うーん……。日本のスマホゲー市場はもう日本メーカーだけのものじゃないのね……」


 漫画やアニメと同様、ゲームも日本が一流、という時代は変わりつつあるようだ。


「『ヒロクリ』も相当頑張らないと売れませんよ」

「そんなこと言わないでよー」

「よくスマホゲーの売り上げは広告費に比例すると言いますが、それに関しては社長が頑張ってるので、何とかなるかもしれませんね。そこは分かってやってるかもしれません」

「なるほどねえ」


 自分のほうが二年先輩だが、スマホゲー知識は門真のほうが遙かに上のようだ。

 門真は社長を評価していたが、各地の名所が登場するゲームなので、社長は地方の組織や団体とコラボ、タイアップするために各地を飛び回っていた。

 成立したものは次々に発表になり、かなり本気なゲームということは世に示すことができている。

 会社にいることはほとんどなく、メールや電話でやりとりしていた。泊まっているホテルからテレビ会議というのも定番になっている。

 しかしそれでも社長が決裁しないといけないことは多いので、ゲーム完成に向けてのチェック関連は滞っていた。会社の庶務くらいは右腕の村野が代理で受けてくれればいいのにと思うが、村野は淡々とプログラマーとしての仕事を果たすだけだ。

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