第4話

「なんかいいことあった?」


 文見は席に戻ってくるなり、隣席に座る同期の久世京祐(くぜけいすけ)に話しかけられた。


「え?」

「その顔」

「ああ……」


 きっとアホに見えるだろうから、一回トイレに行って浮かれる気持ちを抑えたつもりだったが、顔に出ていたようだ。

 感情が顔に出やすいとは昔からよく言われた。本人は必死に隠そうとするけど、そういうのは隠せないものだ。もしかすると、社長との面談でも、返答する前からなんて答えるかバレていたかもしれない。


「実は……大きな仕事、任されちゃった」

「もしかして新プロジェクト?」

「情報早いね」

「まあな」


 久世は大きな目をパチンとウインクしてみせる。

 割とサマになっているから、文見はちょっとそれがムカつく。

 久世は背が高くて顔も整っていて、イケメンの部類に入る。でも、ゲーム会社に就職していることもあって、中身はちゃんとオタク。机にはゲームやアニメキャラのグッズでいっぱいだ。

 チャットコミュニケーションの申し子で、仕事中よく社内チャットツールでいろんな社員とやりとりをしている。そのため、こういうニュースのキャッチが早い。

 元来、人なつっこい性格で、面と向かったコミュニケーションもなかなかのもの。楽観的でお調子者で信用されないこともあるが、気軽に話せるやつとして社内外で人気者だ。


「シナリオやらせてくれるんだって」

「シナリオ!? すごいじゃん! 新プロジェクトってことは、始めから書かせてもらえんの?」

「そう。世界観担当だって」

「いいなあ、うらやましい! 俺も大きな仕事やりてえ!」


 下積みで共に苦労してきた同期に言われると、自分がどれだけ恵まれているかが分かり、文見は嬉しくなる。


「そんなことないよ。新しいプロジェクトなんて絶対大変だし、シナリオも書いたことないからなあ」


 謙遜で言ってみるが、嬉しさはきっと隠せていない。


「小椋は頑張ってたし、みんな期待してるんじゃない? 俺もうまく行くと思ってるぜ」

「そうかな、そうだといいんだけど……」


 久世はいつもこうして図ることなく褒めてくるから、恥ずかしくなってしまう。


「そういう大抜擢があるのは、小さい会社ならではだよな」

「あー、そうかも。大手のゲーム会社だと、シナリオはベテラン社員がやってて、若い人は全然関われないとか聞いたことある」

「シナリオがキャラとか設定とか、ゲーム全体に影響するから大変だというのもあるんだろうけど、そういうの独占したがるよなー」

「ああね……。『自分がこのゲームのお話書きました。なんでも聞いてください』ってインタビューで自慢できるおいしい仕事だから、手放したくないのかなぁ?」


 三年目社員がシナリオを書けるのは、業界全体からすると相当ラッキーなことだ。久世の言うとおり、小さい会社だから起きることだろう。

 小さいゲーム会社に就職するのに不安はあったが、改めてこの会社に合格してよかったと文見は思う。

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