第3話

「私ももちろんゲームは好きだが、若い人のセンスとは違ってくる。売れるゲームを作るにはどうしても若者の意見が必要だ。私は前の面談で確信したよ。若手で小椋ほど情熱を持っている人はいないと」


 社長が非常に恥ずかしいことを言ってくるので、文見はさらに顔を赤くする。

 君はオタクですごい。普通の会社で部下をこんな風に褒めるわけがない。


「でも、あたしなんかがやっていいんですか……?」


 社会人歴2年、ゲームクリエイター歴2年、シナリオ未経験。ゼロからゲームのシナリオを作ってほしいと言われて嬉しいが、やはり荷が重いのではないかと思ってしまう。

 それに社長が冗談で言っていたけれど、シナリオをやりたいという人はけっこう多い。


「こういうのは経験より、愛とかやる気だよ。私も真面目な証券会社で働いていて、ゲームなんて専門外だったわけだし。小椋には、他の人にも勝る愛があるんだと思ったんだが、やる気はどうかな?」


 社長の歯がきらっと光ったように文見には見えた。

 社長は自分を高く買ってくれてる。あとは私が意志を示すだけ。


「もちろんです! やる気あります!!」


 文見は腹の底から大声を出した。

 つばが社長の高いスーツに飛んでしまうが、社長には気にすることなく、


「じゃあ、よろしく頼むよ。あとで企画書送っておくから目通しておいて」


 気さくな感じで片手を上げ、椅子から立ち上がった。


「はい! 勉強しておきます!」


 社長は会議室を出ようとしたところで、振り向いて言った。


「次は何のコスプレするの?」

「はひっ!? あ、いえ……。け、検討中です!」


 文見は声が裏返って思いっきり、きょどってしまう。


「じゃあ、うちのゲームのキャラなんてどう? 宣伝になるし、お金も出していい」

「か、考えておきます!」


 趣味を上司に知られるのは諸刃の剣だと文見は思った。

 さすがに自分が開発しているゲームのキャラになるのは、ちょっと違う気がする。


(それより、コスプレしてるのを社員みんなに見られるとか、マジ無理だから……)


 ともかく、恥ずかしいカミングアウトのおかげで、文見がただゲーマーというわけではなく、世界観を深く理解し、楽しんでいることが社長に伝わり、大役をゲットすることができた。

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