第22話

「あ、あら? こ、こここのあたしになんの用があるのかしら?」


 眼の前に現れたのは、美しい長身の女性だった。必要最低限の部分だけを隠したレザーのワンピースからは、その透き通るような白い肌が惜しげもなく晒されていて目のやり場に困る。目のやり場に困ってるのがバレてニヤニヤしながら命令してもらえる妄想をするとち◯このやり場にも困る。


「ほらリリー、このお方が伝説のドM勇者さんだぞ」


 と、この女性がおじさんの娘のリリーらしく、おじさんは俺の方を手を向けてリリーさんに挨拶を促す。するとリリーさんは頬を赤らめてこちらにチラリと視線を向ける。リリーさんはスタイルはグラマラスだが、そのお顔はどんぐり眼にほんのりピンクで少しふっくら気味のほっぺ。照れて赤くなっていることも相まってその印象はドS姉さんというよりも、とにかく愛らしい。



「あ、あら? あ、あああなたが伝説のドM勇者ですって? 伝説なんて言われて、その、恥ずかしくないの?」


 そんなリリー姉さんから放たれた使いこなせていない女王様スタイルの詰問もまた、可愛らしいと感じてしまう。そんなリリー姉さんを見て俺は、


「心配してくれてありがとう。だが、大丈夫。俺はドMだから、恥ずかしいのはご褒美なんだ」


 キザったらしいくらいに温和な笑みを浮かべてしまう。


「――タイゾーくんが急に爽やかに?」


 そんな俺のフック姉さんには見せたことのない慈愛の笑みに驚かれてしまう。それは置いといてそれをウケたリリー姉さんはさらに顔を赤くして、


「し、心配なんかするわけないし、あ、あなたもしかして自分が心配される価値のある人間だと勘違いしてないかしら?」


 なんてことを早口で言ってくる。その様子は最早ドSというよりツンデレでしかないように見えるがそれは黙っておこう。というかこのままでは話が進まなさそうなのでもう、


「すまない、少し調子に乗ってしまった。それよりもあなたの父親から、ドS姉さんになりたくてもなれなくて困っていると訊いたのだが」


 ストレートにそう訊いてやる。しかしリリー姉さんは口を尖らせながら、


「べ、別に困ってなんかないし、あ、あたしドSだし」


 なんて感じのツンデレムーブを見せてくる。それを見たおじさんはリリー姉さんの肩にポンと手を置く。そして優しい声で、こんな事をいう。


「リリー、大丈夫だから」


 リリー姉さんは一瞬嫌そうな顔をした後、諦めたように小さくため息をついた。


「わかった。話すよ。えーっと、あなたの名前は?」


「タイゾーだ」


「じゃあタイゾー、……その、あたしって、ドSの才能あると思う?」


 ふむ、いきなり直球で訊いて来たな。さて、どうしたものか。


 ぶっちゃけ、先程のドS女王様ムーブは全く板についてはいなかった。元来ドS女王様というものは相手に生物としての覇気を見せつけて思わず従いたくなるような印象を与えるための形式なのだ。

あのレザーの衣装も、ムチもロウソクも、強気な言葉だってそう、それらはあくまでもドSであることを”印象付けるための道具”でしかないのだ。


 しかし、このリリー姉さんが道具を身にまとっても、俺から見た印象は可愛らしいでしかなかった。


「ぶっちゃけ、女王様の才能はないと思う」


「――――ガーン」


 俺のストレートな言葉にリリー姉さんは擬音を口に出し、コミカルなほど俊敏に絶望の表情を浮かべてうなだれる。かわいい。


「待て待て、俺は何もドSの才能がないとは言っていない。女王様の才能がないと言っただけだ」


「えーっと、……それの何が違うの?」


 余程ドSになれないことをコンプレックスに感じているのだろう、リリー姉さんは不安そうな声でそう訊いてくる。なので俺はなるべく安心感を演出できるよう、自信満々な声で返してやる。


「全てのドS姉さんが全て、女王様ではないということだ! この世界には様々なタイプのドS姉さんがいるのだ!」


「そうなの?」


「ああ、もちろんだ! 伝説のドM勇者である俺が言うんだから間違いない!」


 俺は別にその”伝説のドM勇者”などになった覚えなどないが、不安そうなりリー姉さんを安心させるためにあえてそう言ってやる。するとリリー姉さんの顔には少し希望の色が浮かび始める。


「ホント? じゃあ他には、どういうドS姉さんがあるの? あたしでもなれる?」


 そう尋ねるリリー姉さんの声と視線には、懇願するような感情が透けて見えてしまう。これはあれだ。はっきり言ってこの人、Mっぽいな。相手から答えをもらおうとしている。自分が喜んでいいのか悲しんでいいのかを、俺の言葉に委ねようとしている。


 さて、どうしたものか。なんて悩んでいると、


「ねえねえ、リリーちゃんのステータスってどんな感じなの?」


 横からフック姉さんのそんな質問が飛んでくる。そうか、確かSかMかというのはステータスに反映されるんだったな。MPが高いとMで、SPが高いとSだったな。


「ステータス、……かぁ」


 しかし、ステータスのことを訊かれたリリー姉さんは、俯いて乾いた笑みをその顔に張り付かせた。


「確かに、それは一度見ておいたほうがいい。見せてもらえるか?」


 態度から、とても見せたくなさそうなことが伝わってくるが、俺は心を鬼にしてそう言った。するとリリー姉さんはしばらく悩んだ後しぶしぶと呟いた。


「……すてーたす、おーぷん」


 現れた黒い板には、こんなことが書いてあった。


 リリー

 

 職業:女王様志望

 Lv:7

 HP:79

 MP:111

 力:6

 体力:3

 素早さ:5

 知能:12

 精神:22

 魔力:9

 運:2

 EXP:89

 SP:3


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