第20話

「おぉー、ここがナマガンキ地方のペニバンシティか」


「すごいねぇ、私達の来た街とは全然違うよね」


 ドM過ぎる俺のせいで山を一つ吹き飛ばしてしまってから2時間、俺達は街の入口に立っていた。そこは最初の目的地としていたナマガンキ地方最北端にあるペニバンシティという街だ。


 フック姉さんが言うように、ペニバンシティの町並みはフック姉さんの故郷の街とは全然違う。まず、家の形がヤバい。家の屋根が全部黒いパンツみたいな形をしていて、その屋根から生える煙突がち◯この形をしている。そう、屋根の形がもう完全にペニバン付きのパンツだ。


「うわぁ、頭おかしいだろこの街」


 俺は思わず率直な感想を口にする。しかし、それを聞いたフック姉さんはキョトンと首をかしげて、


「そう? わたしはこのデザイン割と好きだけどな、ペニバンって可愛くない?」


 なんてことを平然と言ってのける。


「はぁ? 可愛い? フック姉さんってちょいちょい感覚バグってないか?」


 自分でMだとか言ってるけどこの人本当はドSだろ絶対。


「えー? 別に普通だし」


「いやいや、普通じゃないって、っていうかフック姉さん、アンタ俺のドMさに最初はドン引きですみたいな態度とってたけど本当は別にエロいこととかち◯こに抵抗まったくないよな?」


「え? 別にそういうわけじゃないけどさ……」


 指摘されるとそれには顔を赤くしてしまう。あどけなさの残る整った顔も相まってその姿はとても可愛らしい。そんな身も心も可愛らしいフック姉さんにあんな凌辱のされかたをしたのかと思うとまたもやDOBを発射してこの街を吹き飛ばしてしまってはいけないので俺は慌てて思考を切り替える。


「……まあいい、今はそんなことより早くドS姉さんの情報を集めようじゃないか」


「どうしたの? 顔、赤いよ?」


 アンタに言われたくはない! と、言いたいところだが、口論になる→ディスられまくる→DOB発射、というコンボをキメてしまってはいけないので俺はその反論をグッと堪える。伝説のドS姉さんのためなら俺は、ちゃんと我慢だって出来るのだ。


「気のせいだ、とにかく、俺達の目的は伝説のドS姉さんなのだから、早く探そう」


 と、ちょっと早口でそう言うと、フック姉さんは軽くにまーっと笑いながら、


「あれあれー? さてはドS姉さんが楽しみ過ぎて待ち切れないんだなー? このこのー」


 なんて脇腹を肘で突いてくる。くそっ、やめろ、そういう弄りは俺にとってはおっぱいよりもエロいんだぞいい加減にしろ。


「わかったから早く探そう」


 全脳細胞がぴんこ勃ちしてしまいそうな衝動を無理やり抑え込みながら俺がピシャリとそう言うと、フック姉さんはつまらなそうにしながら「へーい」なんて言いながら情報収集を開始してくれるのだった。


「とりあえず、あれいっとくか」


 言いながら俺が視線を送った方、背の高い女と小太りのおじさんの二人組が歩いてくる。


「あれって?」


 フック姉さんも同じ方に視線を向けながらも不思議そうに訊いてくる。


「あの人達に伝説のドS姉さんについてなにか知ってないか聞こう。


 情報収集といったらまずは聞き込みだ。剣と魔法とSMのファンタジーなこの世界では、当然スマホもインターネットもない。そうなるともう、情報を得るにはこれしかない。


 剣も魔法もないけどインタネットがある地球にいたころもよくドS姉さんを探して道行くお姉さんに「あのー、すいません、あなたもしかしてドS姉さんではありませんか?」なんて質問しては警察に追い回されたものだ。地球にいた頃が懐かしいな。


「すまない、ちょっといいか?」


 通りかかった男女二人組に、まずは俺が声をかける。


 女性の方は長身スレンダーなナイスバディをレザー製の”ザ・SMの女王”って感じのボンテージに見を包んでいて、顔はドミノマスク(ドS姉さんがよくつけているデカい眼鏡みたいなマスク)に半分以上隠れているが、そこから覗く目元と口元から、木の強そうな美人であることがなんとなくうかがえる。


 おじさんのほうは歳の頃40~50といったところだろうか。麻製のくたびれた衣服に身を包んでおり、その表情はどこか悲しげ。SMでいうところの”卑しいブタ”役がピッタリハマりそうなおじさんだ。


「はい、どうされましたか?」


 意外にも、そうはっきりとした丁寧な口調で返答をくれたのはおじさんの方だった。見た目の印象通りならそんなことをすると「あら? 声を出していいって許可なんか出したかしら?」とか言って女王様に怒られてしまいそうなもんだが、……いや、それを狙ってやってるまであるなおじさん侮るべからずだ。


「いきなりでもうしわけないが、俺は伝説のドS姉さんと呼ばれる人物を探しているのだが、なにか知っていることはないか?」


 遠回りしても仕方ないので、俺はもう直球でそう訊いてやる。するとおじさんは急におどろいて、


「――――伝説のドS姉さんを、もしやあなたは伝説のドM勇者?」


 なんて言いながら肩を掴んでくる。


「ちょちょ、どうしたのだおじさんよ、たしかに俺は町長的なジジイから伝説のドM勇者と呼ばれはしたが」


 仕方なく一応肯定すると、おじさんは泣きそうになりながら、



「頼む、うちの娘を、救ってはくれないか?」

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