第19話
「なぁ、本当にここに入るのか?」
レベル上げをした翌日、一度街に帰って一泊した後、俺はフック姉さんとともに洞窟の入口に来ていた。入口の奥からは、ヴンヴンという羽音が響いている。道中フック姉さんから訊いた話では、この洞窟はレッコウザの洞窟という名前で、名前の由来はこの洞窟に奥にレッコウザというボスモンスターが住んでいることらしい。レッコウザは大きな赤色のヘビのモンスターで、人間を見るとその長い身体を巻き付けて動けなくした後、自らの尻尾を獲物の肛門にぶっ刺して裂肛させてから食べるという恐ろしさしかないしどこかの巨大な権力から怒られてしまいそうな名前とスペックを有した魔物らしい。
「当たり前じゃん、ここ通らないとナマガンキ地方には行けないんだから」
言いながらフック姉さんは洞窟の入り口を指差す。その入口は巨大な山のふもとにあり、また山は機など生えておらず急勾配の崖に包まれているスタイルの山で登れそうもない。なので確かにフック姉さんの言う通りここを通らないとこの向こう側にはいけないのだろう。
そして俺達は今朝、7人のドS姉さんを探すたびに出発した。街に古くから伝わる書物によると、最初のドS姉さんは山を超えた先にある”ナマガンキ地方”のどこかにいるらしい。なので俺達は道中いろんなモンスターを姉さんの剣技と俺のDOBで倒しながら、3時間かけてここまでやってきたのだった。
「けどなぁ、爬虫類いっぱいいんだろ? 俺、爬虫類本当に苦手なんだが。なんかもう既に洞窟の奥からヘビっぽい声聞こえて来てるし。
耳を澄ますと洞窟の奥からは、「ゔぃいいい~!」って感じの声と振動音の中間みたいな鳴き声がひっきりなしに響いてきている。
「大丈夫大丈夫、あれはレッコウザじゃなくてアナバイマンの鳴き声だから!」
なんて笑いながら言うフック姉さんに微かなSっ気を感じながら俺は当然の質問をする。
「いや、まずアナバイマンってなに?」
その質問に姉さんは「あ、そっか」みたいなリアクションのあと、アナバイマンについて説明してくれる。
「アナバイマンはね、身長50cmくらいの二足歩行生物で、気を貯めてボールチェーン型の気弾をアナルに打ち込んで来るのが得意技のモンスターなんだ! ちなみに卵じゃなくて種から育つ生物で、レッコウザが何処かから集めてきた種を洞窟内にばらまいてるんだよね」
その説明からわかるアナバイマンのスペックはやっぱりどこかから怒られそうなやつで、さらにに連続で肛門関係だった。
「より嫌だわ! なんでそんな執拗に肛門攻められる洞窟通んなきゃいけないんだ」
と、俺が人として当然の不服を述べるとフック姉さんは不思議そうに首をかしげて、
「え~? ドMってアナル好きなんじゃないの?」
なんてことを言う。
ドMに対する雑な扱いにちょっと興奮しそうになるのを我慢して、俺は言い返す。今後の関係を考えると、誤解はできるだけ解いておいた方がいいからな。
「……前から思ってたんだけど、フック姉さん、ドMを勘違いしてるぞ」
「え? なにが?」
「たしかにアナルとか亀甲縛りとかロウソクとかムチとか言葉責めとかはドMが歓喜するプレイとして世間一般では扱われているが、俺達ドMは別にそのプレイに対して”物理的に”興奮するわけではないんだ」
「え? そうなの?」
やはりそうだったか、と思わされるフック姉さんの意外そうなリアクション。やっぱり説明しておいて良かったと思いながら俺は続ける。
「確かに俺達ドMはそういうプレイをドS姉さんから強いられればひどく興奮して白目を向いて果てる。だがそれは別に、アナルプレイという名称に興奮しているわけでも、ロウソクという物体に興奮しているわけでも、ムチで叩かれた痛みという感覚に興奮しているわけでもない! 俺達ドMはあくまでもドS姉さんの俺をムチで叩いて屈服させ”たい”と思う支配欲だとか、前立腺を刺激して情けなく喘いでいる顔を”見たい”という興味とか、縄で拘束した挙げ句の顔騎で大人のおもちゃみたいに”活用”したいという自分勝手な性欲だとかの、あくまでも姉さんが自分本位の欲望でこちらになにしらのものを”求めてくれる”のが嬉しいのだ!」
なんてことを一息に言い切る俺に対してフック姉さんは別に何も思ってなさそうな顔で、
「ふーん」
なんて言ったあと続けて、
「でも、ここ通んないと行けないのは本当だからとりあえず入ろうよ」
と言い俺の腕をちょっと強引に引っ張る。
「ちょちょちょ! ちょっと待ってくれ! ちょっと話を聞いてくれ!」
俺が慌てて抵抗すると姉さんはすごく面倒くさそうに腕を引っ張るのを一度やめてくれる。
「……なに?」
辞めてはくれたが、すごい呆れた感じ。なんかもう、「あれ? キミみたいなクズごときが自分の薄汚れたアナル守るためにわたしの行動変えさせていいと思っての?」とか続けて言われそうでドキドキしてしまいそうなゾクゾクする視線を、
「……ちょ、フック姉さん、…………こんなところで」
向けてきたのでゾクゾクしてると、姉さんはとても嫌そうな目をして吐き捨てるように、
「いやそういういいから」
と短く言うとまた俺の腕を引っ張る。
「ちょちょちょ待てって! 普通に考えてヤバいだろ俺のアヌスがスパークして人工肛門になったらどうしてくれるんだよ!」
と、俺はもうなりふり構わず至極真っ当なマジレスを返すが姉さんは一切動じず、
「大丈夫大丈夫、もしそうなっても回復魔法で治せるから大丈夫、幸いキミはHPも高いし、わたしも自分の身は自分で守れるから突破できるって」
なんて言って強く強引に引っ張られる。
「いやぁあああああ!」
近づく入口、だんだん大きく聞こえてくるアナバイマンのダミ声、俺は直後にせまる俺の肛門の絶望的未来を想像して絶叫してしまう。
「ふふふ、タイゾーくんそんないい声で鳴いちゃって、そんなにアナルプレイが楽しみなんだね♡」
しかし、そんな俺の心からの叫びは全く届かず、フック姉さんはニコニコと楽しそうに笑いながら俺を引っ張る手により一層力を入れる。
「ちょ! だからマジで肛門は嫌だし俺はモンスターにやられることに興味はない勘弁してくれ!」
「わかってるよそんなのでもほらここ通らないと先に進めないんだから」
ヤバい! この人本気だ。俺の肛門が裂けてしまうとか、それがどのくらい痛いのだとか、どのくらい辛いのかとか怖いのかとか全部無視してむしろそんな嫌がる俺をみて喜んでもっと嫌がる顔を見ようとしている。
それは果たして性欲なのか嗜虐心なのかハァハァわからないが、俺が苦しむことをこの自分はMだと自称する姉さんは望んでいて、嫌がる俺の肛門にエネルギー弾をぶち込むために無理やり腕をハァハァ引っ張って暗い洞窟にハァハァ連れて行こうとして……うっ!
「ね、姉さんもうダメだ!」
「大丈夫大丈夫ー♡」
そんな俺の違う意味でのギリギリ状態の懇願もやはり姉さんには届かず凄く嬉しそうに手を強く引っ張られ、洞窟の入口まであと一歩というところで、
「ダメだイクーーーーっ!」
ズドーーーーーーーーン!
俺は我慢できずDOBを洞窟の上にそびえ立つ山に向かって発射してしまう。
「うわーーーッ!」
「いやーーーーーっ!」
そのあまりにも強大な威力はそのまま山に直撃し、その爆風で俺達も吹き飛ばされる。
「う、……ぅう、フック姉さん、大丈夫か?」
「……いたたぁ、まぁ、なんとかね」
俺はフック姉さんの無事を確認すると、目を開け山の方を見る。そこにあるのはもう、唖然とするしかない景色だった。
「……うわぁ」
「……あららぁ」
洞窟は、山ごときれいさっぱり無くなってしまっていた。
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