第17話
「ねえ、あのヘビやっつけてくれるよね?」
俺の目を強く射抜く視線で、フック姉さんはそんなことを言う。
「は?」
あまりの展開に意味がわからず俺がそう問い返すと、フック姉さんはそこでなぜか顔を真赤にして俺の手を開放する。そして、
「だ、だから、ーーーーったんだから、その、ーーーとしてそれくらいやってきてよ」
消え入りそうな声で何かをぼそぼそと言う。
「すまん、もう少し大きな声で言ってくれないか?」
と、言うと姉さんは更に顔を真赤にして、
「だから! わたしのおっぱい触ったんだから、その対価としてそのヘビやっつけてレベルアップ死なさいっていってんの!」
ととても大きな声で怒鳴った。
「いや、触ったんだからってそれは姉さんがだな……」
「う、うるさい! 誰が手を引っ張ろうがタイゾーみたいなしょぼい男のコがわた、わたしのようなかれ、可憐なおお女の子のおおおおおおっぱい触ったんだったらタイゾーが悪いの! いいから早くやっつける!」
それを言うだけ言うと、姉さんは素早くヘビの縄を解き俺に投げつける。
「わわっ!」
開放されたヘビは当たり前だがもう既に激おこで、飛んでくる勢いでそのまま俺の右腕に噛みつく。
「いだっ!」
ヘビに噛みつかれた瞬間、腕に激痛が走る。
「いだだだだだだだだ!」
その痛みは今まで感じたことのないレベルで、意識が遠のきそうになりながらも俺は腕をブンブンと振り回し、なんとかヘビを引き剥がす。
「……はぁ、はぁ、はぁ」
そして息絶え絶えな俺に向かってフック姉さんから気楽な調子で追加情報が与えられる。
「あ、言い忘れてたけどそのヘビ、ポイズンスネークっていって牙に毒あるから!」
いやいやなに言ってんのこの人。勝手に自分の胸急に触らせて、その対価にヘビやっつけろって、俺に毒蛇投げつけてきて、毒あるって教えてくるの今かよ。
「しゃー!」
なんて考えてる暇もなくヘビが襲いかかってくるので必死に身体をかわす。
「うわっ!」
と、ギリギリのところでかわせたが、もう少しでまた噛まれるところだった。ステータスのパネルを確認すると、HPが9985まで減り、状態:毒 という項目が追加されていた。
「ちょ! 毒に侵されたんだが⁉」
フック姉さんに向かってすがるようにそう叫ぶが、当の姉さんはなぜかちょっと苛立たしげに、
「なにやってんの? やっつけてって言ったよね?」
マジか。この姉さん何がどちらかといえばMだよ。こんなのまるっきりドSじゃないか。
「……いや待てよ?」
そうか、そうだよ、姉さんめっちゃドSじゃないか。そしてそのドSなフック姉さんにいじめられてる俺は今、最高にドMだ。なぜ俺は今、普通にこの状況を嫌がっているんだ? よだれを垂らしながら射精してないとおかしいだろこんなの。多分、爬虫類が苦手すぎて意識をそっちに取られてたせいなのか? よく考えると、それだって最高のシチュエーションだ。
「しゃー! ガブッ!」
足りない頭で考えてみる。俺はドMだ。エロくて勝ち気なドS姉さんに、ニヤニヤされながら性のはけ口としてだけ見られ、尊厳も人権も無視して、弄ばれるのが夢だった。またもや腕をヘビに噛まれたようだが今はそれどころではない。視線を下ろしてお股の方を確認する。半ボッキ状態といったところか。いや、しかしこれはさっきのぱいおつ的なあれの余韻だ。ノーマルで健全な男であればさっきのぱいおつ事件だときっと向こう2時間はフルボッキ状態だろうが俺はドM。だからこの程度のボッキ具合なのだろう。つまり、現状の俺は性欲のノーマルな部分しか刺激されておらず、ドM的な部分は全くなにも感じていないのだ。おかしい、なぜだ? なぜ俺はこんなにももったいないことになっているのだ? こんなにもドSフック姉さんに刺激されているというのに絶頂出来ていないなんて。なんだ、何が足りない。性欲を持て余したドS姉さんの性のはけ口になることが夢である俺にとって何が、眼の前にいるだろう、性欲を持て余したドS姉……いや、まてよ? あるじゃないか! ひとつだけたりないものが!
「おい! フック姉さん!」
気付いた瞬間俺は叫んでいた。
「え? 何急に?」
突然の俺の絶叫にフック姉さんは驚き目を丸くする。だが、俺はそんなの無視して、さっき思いついたことについて全力で問いかける。
「もしも俺が! 村の都合で勝手にドM勇者にされて、ドM勇者として冒険するための力をつけるためとか言ってフック姉さんに無理やり戦わされてるこの俺がよぉ! もしも、もしもフック姉さんの胸を触ったことの、無理やり触らされたにも関わらずおっぱいがあまりにも嬉しすぎて次を勝手に期待して他者を攻撃したくないという意思を曲げてまでこのヘビを倒したらぁ!」
と、そこで俺は息を大きく吸い込み、
「フック姉さんはどんな気持ちになるんだー!」
一番聞きたかったことを強く叫んだ。するとそれを聞いたフック姉さんは一瞬迷いを見せてから大きく息を吸い込み、
「キミが情けなさ過ぎてイっちゃいそうだよ!」
と、俺が一番望んでいた言葉を返してくれた。
俺はドMだ。もう物心ついたときからの筋金入りのドMだ。俺は、性欲と嗜虐性を持て余したドM姉さんにいじめられたいと常々思っている。だけど、それはそのいじめられるという物理的な部分に喜びがあるんじゃない。ドS姉さんが、俺の身体と心を使って、気持ちよくなってくれるから俺も興奮するのだ。
だからその、フック姉さんからの「イッちゃいそう」という言葉は俺の鼓膜だけではなく全ての脳細胞とあらゆる幸福回路を激しく揺らし、意識と快楽は一瞬にして混濁させた。
「うおぉぉぉぉおおおおおおお!!!」
気づけば俺は腹の底から雄叫びを上げ、ヘビに向かって走り出していた。そこからしばらくの記憶はない。覚えているのは圧倒的な多幸感と、体全体がまるでち◯こになったような激しい衝動だけだった。
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