第16話

「シャー!!」


 フック姉さんに連れられて歩くこと30分。俺は森の中に連れてこられた。そして眼の前には鮮やかなオレンジ色をした1mくらいのヘビ。


「……なあ、俺爬虫類とか苦手なんだが」


 そう、俺は爬虫類や昆虫が苦手だ。ドM的には凌辱に使われそうという意味で好きでもおかしくはないのかもしれないが、苦手なものは苦手だ。なので俺は一旦。恨めしそうかつ縋るような視線をフック姉さんに送るが、


「でも、可愛くないでしょ?」


 なんてことをドヤ顔で返される。ですよね。俺がスライム可愛いから倒すのヤダって言ったからここまで歩いてきたんですもんね。名案思いついたわたし天才じゃない? みたいな得意げさ可愛いですね。けど……、


「とはいえ俺はドMだ、さっきも言ったが自分の意思で、相手がキモいヘビとはいえ危害を加えるというのは主義に反するぞ」


 と、俺が言うとフック姉さんは「はぁ、……そうだよね」と口の中だけで小さく言い、大きくため息をつく。そしてそのあと覚悟を決めたように一度表情を引き締めた後、おもむろにヘビを捕まえる。

そしてそのヘビをロープでぐるぐるまきにして動けないようにしてから投げ捨てる。


「え?」

 そして彼女はやたらと勝ち気な笑みを浮かべながらこちらを真っ直ぐ見つめ、こんなことを言ってくる。



「ねえ、両手を前に出して」


「……は?」


 俺は一瞬意味がわからず戸惑ってしまう。するとそんな俺を見たフック姉さんは不機嫌そうに眉をひそめる。


「聞こえなかったの? 両手を前に出して?」


 そんな簡単なことも出来ないわけ? とでも続けて言われそうな見下したような表情とその声色。そこに強いSの系譜を感じた俺はなすがまま、まるで獲物に触覚が触れたイソギンチャクがその獲物を取り込むように、本能が両手を前に差し出していた。


「……ふふっ」

 

 それを見たフック姉さんは満足げな表情を浮かべて、自らのその柔らかそうな唇をぺろりと舐める。


「どうしたの? 今にもイっちゃいそうな顔してるよ? キミって、手を前に出すと興奮するんだね?」


 俺は今、どんな顔をしているのだろうか。アホみたいに棒立ちで両手を前に突き出す俺の棒の方も多分軽く立ち上がっているだろうことがバレたらどんなことを言われてしまうのだろうか。という興味が頭に浮かぶが、今は侮蔑と支配を宿したその強い瞳に心を奪われそれを試す気にはなれない。


「ふふっ、じゃあ、こういうのは、ーーどうかな?」


 そしてフック姉さんは今度は妖艶に笑うと、自らの鎧の金具をカチャカチャと外し始めた。


「え? な、なにを?」


 驚く俺をよそ目に、フック姉さんはおもそうな鎧をテキパキと脱いでしまう。その鎧の下にはタンクトップのような服だけを着ている。先程までは見えていなかった柔らかな部分の素肌はまるで彼女の心の柔らかさを表しているみたいで、突然意味もわからず見せられたのにもかかわらずどこか罪悪感を感じてしまう。


「ねえ、そのままに、しててね?」


 罪悪感におどおどとする俺に優しく微笑むと、フック姉さんは自らに向かって突き出された俺の両手をゆっくりと掴んだ。あまりの恥ずかしさに目をそらしてしまいたくなるが、妖艶に笑うフック姉さんの視線はまっすぐにこちらを捉えていて、そこから視線を外すことを本能に拒否されてしまう。


「え、っと、……なにを?」


 やっとの思いで絞り出されたかすれた声は小さく嗜虐的な笑いによって無視されて、そのまま俺の手はより前へと引っ張られる。


「…………」


 思考がフリーズしている間にその両手はゴールに辿り着きそこに触れる。


「ーーーーふふっ」


 不敵に笑うフック姉さんの顔は少し赤く上気していて、まるでそこには性と優しさのすべてがあるみたいで、だけどそれは強引に押し付けられてるようでもあって、意識が飛びそうになる。そのままフック姉さんは俺の手を上下に動かす。薄いタンクトップ越しの天国のように柔らかい部分、それが動くことにより俺の脳により具体的にその持ち主の女性的な部分の感触であることをダイレクトに伝えてきて、もっというとその真中にある少しだけ硬い部分が手のひらの一部と擦れて、


「……んっ」


 フック姉さんは少しだけ身体をピクリと跳ねさせる。そして更に赤くした顔で彼女は、


「ねえ、そのヘビ、やっつけてくれるよね?」


 なんてことを言うのだった。

 

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