第14話

 前略、俺のここまでのドMでバカな話を聞いてくれている優しいアンタ達よ。俺はドM過ぎる妄想に没頭しすぎて命を落とした。


 ……はずが何故かマゾさと変態性が体力と魔法のエネルギーに変わる世界に転移していた。その世界での俺はどうやら伝説のドM勇者らしく、町長のジジイに頼まれて、世界中に散らばる7人のドS姉さんを探すというワクワクムラムラ待ったなしの大冒険に旅立った。


 ばちーーん!


「ぬぉっ!」


「ちょ! なんで無抵抗なの! 倒さないとレベル上がらないのわかってる⁉」


 ……はずが何故か俺は街の近所の平原にて、スライムと戦わされていた。


「いやいやフック姉さんよ、俺はドMだ! 自分から相手を傷つけるなどというのはしかし」


 すぐにでもドS姉さんを探そう! と俺はハァハァと口呼吸になりながらフック姉さんに訴えかけたのだが、


「うーん、でもこのままのステータスじゃ絶対たどり着けないからまずはレベル上げようよ」


 と言われ、レベルを上げるには戦闘に勝って経験値を手に入れる必要があるらしいのでスライムと戦わされているのだ。


「……うーん、困ったなぁ」


 俺のドM宣言を聞いたフック姉さんは顎に手を当てて考え込んでしまう。俺の無能さのせいで真面目に悩まれてしまいながらもスライムになぶられるというこのシチュエーションは若干熱いのだが、今はきっとそれどころじゃない。そう、俺はこんなちょっとしたサディズムシチュに満足できるほど小さな男、いやドMではないのだ。その存在を知ってしまった以上、俺はどうしても7人のドS姉さんに会いたいし、姉さん達からムチャクチャにされたいのだ。そのためにはこの試練を乗り越える必要があるのだから、俺は自分を曲げてでもスライムを倒すべきなのだろう。だが、どうにもそういうのは苦手だ。


「キュビー!」


 俺にいい感じに体当たりをキメたスライムがドヤ顔で勝ち誇っている。


「うーん……」


「ほら、スライムがイキって油断してる今がちゃんすだよ! 切って! ほらはやく切り刻んで!」


 なんてことをフック姉さんは言うのだが、


「でもさ、イキってるこいつ、ちょっとかわいくない?」


 と、俺はさっきから思っていることを言ってみる。


「……えーっと、なんのことかな? ちょっとお姉さん意味わかんないなぁ」


 するとフック姉さんはなんか焦った感じで俺から目をそらし、斜め上を見ながらそんなことを言う。


「いや、どう考えてもかわいいだろ。このちょっと憎たらしい感じとか、ちょっと攻撃がうまくいっただけで喜んじゃうアホさとか、この丸っこいフォルムとかつぶらな瞳とか、どう考えても可愛いだろ」


 と、さらに追加でそう言ってやると、フック姉さんは耳を塞いで、


「言わないで! わたしがレベル上げの為にどれほどのスライムを倒してきたのかを考慮して言わないで! デリカシーを持って発言してーーーー!」


 と、現実逃避丸出しなことを叫ぶので、俺は、


「いや、それ絶対最初からスライム可愛いと思ってるだろ。あとファンタジー世界の人モンスターとかのことよく倒すっていうけどどう考えてもころ……」


 普通に思ったこを言い、続いて前から思っていた素朴な疑問を言おうとすると、


「それ以上言うなーーーー!」


 絶叫するフック姉さんから今までで一番強烈なチョップをもらう。


「いっっっだ!!!」


 あまりの激痛に俺はデコを抑えながら地面を転がる。


「あ、ゴメン」


 謝る姉さんを見ながら俺は、この人俺に対して常識人打った態度とってるけど結構ダメな性格してるよな。なんてことを理不尽な暴力に少しだけ興奮しながら思うのだった。

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