第12話
「……と、いうわけで、せっかく用意してもらって申し訳ないが、俺はドMゆえそういう気遣いは辞めてもらえると助かる」
町長のジジイに、伝説のドM勇者としての饗し(の主に女性のダンサーが半裸で踊る件)について辞めてほしいということを伝える。
「ーーーーそうか、それは、……すまなかった」
説明を終えると、ジジイは少しうつむいて謝罪する。ふむ、なんというかこう、自分に対して善意でなにかしてくれてる相手に対して拒絶の意を示すのってちょっとしんどいよな。これはドMとか関係なく普通に思う。
「いや、こちらこそドMですまない」
気まずさを打ち破るように、俺もジジイに対して謝罪で返す。すると、ジジイはそこから表情を真剣なものに切り替え、真面目なトーンでこう言った。
「ーーーーして、実はお主には頼みがあるのだ」
……ふむ。まあそんなことだろうとは思っていた。魔王がいる→俺は勇者→やたら饗される。そう、これは非常に簡単な方程式なのだ。つまり、
「魔王を倒してほしいんだよな?」
と、長いやり取りするのも面倒な俺はもう初手直球でそう訊いてやる。するとジジイは表情をぱぁっと明るくして、
「おぉ、やってくれるか!」
なんて早とちりなことを言う。
「いや、やるとは言っていない。アンタらには俺が勇者に見えているかもしれないが、俺はただ誰よりもドMなだけだ。ドMってのは、勇気とは対極にある。だから悪いがこの話は……」
「……しかし、このままではやがて世界が」
気を持たせるようなことを言っても悪いと思ったのでスパッと断るが、ジジイはやはり諦めず懇願する。……だよなぁ。魔王がどうとかって、世界かかってるもんな。リョナオーだっけ? この世界の健全にSMを楽しむエロい市民たちをリョナに染めて危険なプレイさせて大事故起こして人を傷つけるんだっけ? 健全なSMってなんだ。
「とはいってもな、俺にはやるべきことがある」
そう、俺にはやるべきことがある。せっかく異世界に転移してどれだけ殴られても死なない身体と弱すぎるパラメーターを手に入れたのだ。モンスターなんかと戦う日々よりも、ドSな美女相手に戦わずして敗北を叩きつけられる日々を目指すのがドM道というものだろう。
「頼む! 頼める相手はお主しかおらんのだ! このままでは世界はリョナオーの望む人体損壊プレイに満ちた修羅の世界になってしまう! それを止められるのはお主だけなのだ!」
更に断る俺に対して、なりふりかまってられないジジイは床に膝をついて懇願する。意地もプライドも捨てたその瞳からは世界の崩壊を恐れる不安だけが、ただまっすぐに伝わってくる。
……困ったな。めっちゃ断りにくい。ぶっちゃけ世界がどうとかはもう、俺にどうこうできるなんてはなから思わないのでアレが、こういう人のまっすぐな感情ってのはどうにも拘束力を感じてしまう。これも拘束だけにドMに与えられし業なのだろうか。
「頼む! もしも救ってくれるのであれば地位も名誉もいらぬ! 金銭や立場も儂にできる限り保証する! だからどうか……」
と、とうとう床に頭を擦り付けて懇願を始める町長の肩を、ハナフック姉さんがポンと優しく叩く。
「わたしがやります。その、わたしだって実は結構Mですし、その、まぁ、ちょっと不安ではあるけど、わたしが耐えてみせます、七人のドS姉さんの試練に!」
と、ハナフック姉さんは町長の肩に置いたもう片方の手で、小さくガッツポーズを作りながら健気に宣言した。
そうか、この町長は俺に七人のドS姉さんの課す試練を俺に受けさせようとしていたんだな。まぁ、普通に考えて魔王をやっつける力を得るためにその試練に耐える必要があるのだろうが、初対面の俺にそんなこと頼まれてもちょっと待てよなにそれ七人のドS姉さんの試練? ドS姉さんが七人もいるの?
「ちょ! その七人のドS姉さんについてkwsk!」
気づけば俺は唾を飛ばす勢いでジジイに向かって叫んでいた。
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