第10話
「伝説?」
俺のパラメータを見て、伝説に合致するなんてことを呟いたジジイに俺は面倒くさそうに聞いた。伝説とかどうでもいいしせっかくなんかエロそうな異世界の街に来たし早くいろんなドS姉さんを探したいからな。
「あぁ、我が家系に代々受け継がれし書には、こう記されてあった」
ジジイはやたらと芝居がかった重苦しい声で語り始める。
「世界が破壊の暴虐に脅かされし時、異なる場所より戦士現る。戦士は清く、優しく、ただひたすらに自虐的嗜好の業に包まれ、イカ臭き書とともに現れる。イカ臭きMの戦士は性以外のすべてをもたざるもの。民が戦士を7の嗜虐神のもとへ導けば、道は開かれよう、とな」
「うーん、と?」
どういう意味だ? 俺は清く優しくイカ臭いってことか? このジジイまじで失礼だな。
「た、たしかに一致しますね」
姉さんまで俺のことイカ臭いと思ってたのかよ、それは、……まぁ推せるからいいか。
「一致って?」
まだなんのこっちゃわからない俺は、人の話を聞かなそうなジジイはほっといて、姉さんにそう尋ねる。
するとハナフック姉さんはちょっとテンション高い感じで、
「ほら! 自虐的嗜好の業ってようはありえないくらいドMってことじゃない?」
「まあ、たしかに」
「それに! イカ臭き書ってきっとキミのザーメニウム製ステータスパネルのことだよ!」
「……まあ、たしかに」
「それにそれに! イカ臭きMの戦士は性以外のすべてをもたざるっていうのも、キミがドMでエロ過ぎるだけの存在ってことであってるよねパラメーター全部1だし!」
「ちょちょちょ、ちょっと待ってくれ!」
なんかめっちゃ罵倒してきてヤバいので、俺は思わず待ったをかける。するとハナフック姉さんは何もわかってないのかキョトンとした様子で、
「え? なに?」
と首をかしげる。
その仕草が普通にかわいいのと、罵倒してることに気づいてさえいないこのシチュは非常に推せるが今はそれどころではない。
「……そ、そんなに一気に罵倒されるとヤバいことになるのでそのへんにしてもらっていいか?」
と、率直に言ってみると、ハナフック姉さんは一瞬考えたあと、
「……あ、その、ご、ごめんなさい!」
なにかに気づいた様子で慌てて頭を下げてくる。多分、俺を傷つけたと思っての態度だろう。まぁ本当はもちろん傷いてなんかいない。ジジイ含む初対面の人間多数に囲まれたアウェイな環境でめっちゃ罵倒してくるなどというハイレベルなプレイを続けられるとイッてしまいそうだから止めただけなのでちょっと罪悪感を感じるが、訂正するのも面倒なのでそのまま頷く。
「ああ、わかってくれたなら大丈夫だ」
「して、タイゾーよ」
俺とハナフック姉さんの会話が終わったのを見計らって、村長のジジイから声がかかる。待っててくれたのだろうか。割と気が遣えるジジイなのかもしれない。
「なんだ?」
なのでさっきよりも少し警戒を解き、若干フランクな声色でそう返してやる。するとジジイはさっきより更に重々しい感じで、
「ち◯ことはなにか?」
なんてことを訊いてくる。真面目な顔と声でいきなりそんなことを言ってくるのでちょっと笑いそうになったが、多分めっちゃ真面目に訊いてきてるので、俺も真面目に、力強くこう返した。
「見せるものではなく、見られるものだ!」
ジジイは俺の答えに一切表情を変えず、こう続ける。
「ほう、ならば、下着とはなにか?」
これにも俺は真面目に答えてやる。
「突破されるという現象に魔法をかけるための偽りの防壁だ!」
やはりジジイはこれにも表情を変えず、次の質問が飛んでくる。
「ふむ、ならば最後に、マゾヒストとはなにか?」
なるほど、そうきたか。その確信をついた質問に、俺はさっきまでよりもより強く、
「委ねるのではなく、従うのでもなく、ただ、相手の心が生み出した閉じた世界において光り輝く存在であろうとすることだ!」
そう言い放つ。ジジイはその言葉を受けて、しばらくそれを反芻するようにしばらく黙り、やがて口を開く。
「ふむ、伝承通りだ。お主は、……伝説のドM勇者だ!」
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