第8話


「……と、いうわけでキミは伝説のドM勇者かもしれないってわけ」


 ロリ姉さんに俺の白いアレを見られてドン引きされてから数十分後、俺は姉さんに連れられて街に向かって歩いていた。


「なるほどなぁ」


 ロリ姉さんが道中してくれた説明をまとめてみる。


 曰く、この世界にはめっちゃ悪い魔王リョナオーというらのがいて、そいつに世界は支配されかかっているらしい。


 魔王リョナオーは性的に極悪で、エロスはリョナ(肉体的に苦痛を与えたり与えられることに性的興奮を覚える性的嗜好)しか認めないとい超過激。


 実際今もこの世界のどこかで魔王軍によるリョナ行為は多数行われていて、リョナの被害にあったものが大怪我をしたり命を落としたりする事件が後をたたないらしい。


 魔王軍以外のこの世界の住人は元来ロウソクやギャグボールを使った健全なSMを愛しているのだが、ここ最近魔王軍の武力行使や違法媚薬のまん延により、リョナ行為に手を染めてしまう住人が後を絶たないらしい。そしてこの世界には古くより『伝説のドM勇者』の言い伝えがあって、


 曰く、悪しき者による悪しきエロスが生まれし時、この世に正義のドM戦士が訪れるだろう。


 サディズムを全く持たない究極のドMがこの世を救う鍵となるだろう。


 みたいな感じのことが古代の書物に記されていたらしい。


「SPがゼロの人って本当にいないんだよ、そんでさらにその高すぎるHPとMP、そしてキミは別の世界からやってきたっていうし、伝説なんて半信半疑だったけど、これはもう信じるしか……」


 難しい顔をしてブツブツ言うロリ姉さん。ちなみに俺が異世界からやってきたっぽいことはさっきもう話してある。隠すのもめんどくさいし、ドM的にも秘密っぽいことは知られてるほうが興奮できるチャンスが増えるからな。ていうかもし俺がその伝説のドM勇者とやらだったら俺はこれからどうなるのだろうか。


「なあ、ロリ姉さん」


 なのでそのまま直球で聞いてやろうと声をかけると、ロリ姉さんはムッとしたように、


「ねぇ、さっきパラメーター欄でわたしの名前見たよね? いい加減そのロリ姉さんってのやめてくれるかな?」


 確かにそうだった。それに、ロリ姉さんは見た目が幼いことをちょっと気にしてるっぽいし、今後の関係性的にも(相手の要求があるのなら言いなりになっておいたほうが今後相手が俺のことをいじめやすいかもしれない)服従しておこう。確か名前はサニー・ハナフックだったか。


「そうだったな、すまない、ハナフック姉さん」


 と、頭を下げて謝ると、何故か姉さんは凄く怒ったように、


「いやいやなんでそっちとるのさ! ハナフックがプロってる人みたいで恥ずかしいんですけど!」


 なんてことを言う。


 うーん、ハナフック姉さんの名字であるとはいえ、ハナフックはこちらの世界でも普通にハナフックという意味なのだろうか。


「なあ、ハナフックってこっちの世界ではどういう意味なんだ?」


 と、やっぱりどストレートに聞いてみると、


「鼻にかけたフックをゴムで引っ張って豚顔になる恥ずかしさで興奮するプレイのことだよ! 言わせないでよこんなこと!」 


 と、恥ずかしそうに顔を真赤にして叫ぶ。うーん、やっぱり同じ意味だったか。ということはこの姉さん凄い名字だな。


「そうだったのか、それはすまないハナフック姉さん」


「だからなんだってまだそっちで呼ぶんだーーーー! サニーの方はどうしたーーー!」


 俺の謝罪に対してウガー! みたいな感じで天に向かって火を吹くようにハナフック姉さんは怒る。


 ふむ、これは困った。そんな怒られてもしょうがないだろこればっかりは。と、思ったので怒られてもなお俺がハナフック姉さんと呼ぶ理由をそのまま説明する。問題解決のためには腹を割って話すことが一番大切だからな。


「いや、ほら、俺とハナフック姉さんは初対面だろ? 俺もドMとはいえ、もういい年の大人だし、初対面の女性であるハナフック姉さんに対していきなりファーストネーム呼びは失礼かなと……」


「いらないデリカシー!」


 ちょっと照れるように鼻をぽりぽりと掻きながら言う俺にハナフック姉さんは、俺に対して超でかい声でデリカシーがいらないことを怒鳴ってくる。ふむ、……この人は俺にフランクな関係を望んでいるのだろうか。とはいえ俺はドM、自分から初対面の相手に距離を詰めるのはとても。


「いや、ハナフック姉さんのその気持は嬉しいのだが、ドMの俺としては、こちらがデリカシーを持って女性に接しているにも関わらず向こうからはズカズカと踏み込まれるというのが……」


「お前の性癖なんか聞いてねーしデリカシーそのものがいらないという意味でもねーーーーーよ!」


 俺の正直な告白に、何故かより激昂したハナフック姉さんは怒鳴ったかと思うといきなり俺に足払いをかける。


「うぉっ!」


 そしてころんだ俺の足首を両脇に挟み、そのままぐるぐるとジャイアントスイングを始める。


「うおー、目が回る」


「なんなのさもう! さっきからハナフックハナフックって! わたしが名字嫌で気にしてるのしっててわざとやってるよね! このドMが! 大木にぶつかって死ね!!」


 なんて叫びながら、回転数が凄いことになっている状態で手を離される。そのまま俺はビューンと飛んでいき、そのまま大木に突っ込んだ。


「グォっ!」


 世界がそのまますべて吹っ飛んだかのような衝撃に一瞬意識が飛ぶ。流石にちょっとだけ不安になってステータスを確認すると、HPが9971に減っていた。さっき確か9982だったからいまので11ダメージか。


 そうして俺は、異世界に転移してからの二桁ダメージバージンを、ハナフック姉さんに奪われるのだった最高です。



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