第4話

「きゅびびー!」


「うわぁーっ」


 広い草原のど真ん中、俺はスライムに襲われていた。しかもドMすぎる俺は性的な嗜好を守るためたとえ化け物相手でも攻撃できない大ピンチ。なので俺は大人しくもう一度このスライムのめっちゃ痛い体当たりを……、


「はあっ!」


 と、スライムが俺にぶち当たる寸前、横から現れた何者かにスライムがふっとばされる。


「キミ、大丈夫?」


 スライムをふっとばして俺の前に立つのは人間の女性だった。俺に背を向けて立っているので顔は分からない。しかし、やたらと露出度の高いブリキみたいな素材の鎧から飛び出す手足はちょっと短いけれどとても柔らかそうな曲線を描いていて、その透き通るような白い肌、微かな風にさえ撫でられてしまう艷やかな水色の髪は、その女性がその性として優れた存在であることを問答無用に伝えてくる。


「ね、姉さん!」


「……は?」


 この人がドSだったら嬉しいなと思った俺は、思わず口を滑らせ年下かもしれない女性を『姉さん』と呼んでしまう。


「あ、ごめん、俺ドMなもんでつい!」


 それを聞いた姉さん(仮)はギョッとしたように高速でこちらを振り返る。今回の姉さんの顔は体型からの予想はしていたがちょっと幼い感じのロリ顔で、そのくりんとした大きな瞳や薄く透明感のある唇から受ける印象は、快活そうだけどどこか人懐っこい幻想的な美少女。なので残念ながら、ツリ目をいやらしく歪める長身グラマラスな姉さんがどストライクな俺の中のSへの願望が少ししょんぼりしてしまう。しかし、この人が見た目とギャップのあるタイプの姉さんで、無垢なフリして周りの人に俺のことを悪者に仕立て上げながら影でこっそり俺のことを凌辱するんだったら、それはそれでアリです。


「答えになってないんだけど?」


 咄嗟に出た俺の謝罪に、仮姉は唖然とした様子で言う。ていうか仮姉ってカリが大好きな姉さんみたいな感じがしてエロいよな。


 と、言うわけで俺はなるべくわかりやすく説明することを心がけてみる。


「ーーああ、申し訳ない。わかりやすく説明すると、あまりにもドMな俺は、ドSな女性、もしくはドSであって欲しいと願う女性に敬意をこめて”姉さん”と心の中で呼んでいるのだが、アンタの後ろ姿から発せられる強者のオーラを感じた瞬間思わず俺の脳の奥底に眠るドーパミン放出回路が”姉さん”という単語をまるで射精のように口から飛ばしてしまったようだ申し訳ない」


 言いながら俺が頭を下げると、ドS予備軍(願望)姉さんは引いたような笑みを浮かべてこちらを見る。ふむ、今のところ嗜虐性は感じられないが、悪くはない表情だ。


「えー、……と? 全然わかりやすくなかったけど、とりあえずキミがヤバい奴だということだけはわかったよ」


 言いながらドSであることを願いたもりたい系姉さんは腰に差した剣を抜き、横から飛びかかってきたスライムを一刀両断する。嫌だこの姉さん強い! 剣で脅されて縄で縛られたいです!


「……あの、ごめん、もう行っていいかな」


 と、もう既にちょっと足を進行方向に出しながら言うドSじゃないかもしれない女性に俺は、


「ま、待ってくれ、これだけは訊かせてくれ!」


 とすがるように言う。


 すると女性(ノーマルかもしれない)は少し困ったように、


「……ひとつだけなら」


 顔をひきつらせながらも足を止めてくれる。なので俺はそのまま、彼女の名前よりも年齢よりもスリーサイズよりもぱんつの色よりもどうして助けてくれたのかよりももっと重要で崇高な問をそのまま投げかける。


「アンタはその、……ドSなのか?」


 姉さん(ドン引きしつつもそれは世を忍ぶ仮の姿で本当は早く俺をいじめたくて脳内がよだれダラダラだったらいいな)は顔をひきつらせたまま、冷や汗を額に浮かべまくるのだった。

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