第3話

「うーん、しかしこれからどうすればいいんだろうか」


 急に目覚めた大草原の中、俺はひたすらに歩いていた。ここがどこなのか、どっちの方に何があるのかすらわからないけれど、こんな場所にずっといるわけにも行かない。夜になると危ないかもしれないし、腹だって減ってくるだろう。なんとかして村的な場所に辿りつかなければ安心してムラムラすることすらできないだろう。ふっ、村だけにな。


 だだっ広い草原を真っ直ぐとしばらく歩いていくと、


「きゅびー!」


「……むっ?」


 突然、目の前に青いジェルにキュートな顔が描かれている感じの生物が飛び出してくる。


「これはもしや、……スライムというやつか?」


「きゅびびー!」


 スライムは地面に張り付くようにべちゃっと縮み、伸びる勢いでそのままこちらに飛んでくる。


「うおっ!」


 成すすべもなくその体当たりを喰らい、大きく後ろに弾き飛ばされる。


「ったたぁ……」


 3m位は飛ばされただろうか、めっちゃ痛い。っていうかこのスライム強くない? ……いや違う俺が弱いんだった。俺のパラメーター全部1だもんな。だとしたらヤバくない? 俺ここで死ぬの?


 不安になりながら自分のパラメーターが表示された黒い板を確認するとそこには、


タイゾー

HP:9997

MP:9999

Lv:1


 と書かれていた。


 あれ? 2だけ減ってる。あんなに痛かったのにか? ということは俺は死ぬまでにあれをあと4999回も喰らわなきゃいけないのか? いくら俺がドMだといってもそんなのまるっきり嬉しくないぜ。俺はあくまでもドSお姉さんに凌辱されるのが好きなだけで、こんな謎の軟体生物に苦痛を味合わされることなんか望んじゃいない。


 もっとも、もしも俺をこの世界に転移させた神様がいやらしい笑顔のドS姉さんで、俺がこうなるようにわざとパラメーターを低くして苦しみを増やして、HPだけ高くしてやられるのを何度も楽しめるようにしているのだとしたら、もっというとそれをニヤニヤ安全な天界から眺めながら興奮して自慰に耽っているのだとしたらあるいはそれもうれしはうぐぉっ!


「きゅびーー!」


 妄想に浸っている途中、またもやスライムから追撃を喰らう。くっ、妄想が始まると周りが見えなくなるのは俺の悪い癖だな。


「いたた……」


 しかしあれだな。ドS姉さんのオカズにされてるのかもしれないと思うと、この痛みもまた快楽であるような気がしてくるから我ながらドMは不思議だ。


 しかし困ったな。いくら痛みを快楽に変える術が見つかったとはいえ、このままでは俺はこいつにあと4998回ぶん殴られて死んでしまう。だから生き延びようと思うのならこいつを倒してしまう必要があるのだろう。


 だが、それは無理なのだ。


 別にパラメーターが1だからではない。俺のHPはまだ9995残っている。なので根性でゴリ押しすれば普通に勝てる可能性は全然あるだろう。しかし考えてみて欲しい。


 俺はドMなのだ。


 ドMが実力行使で的に勝つなどあってはならない。自らの意思と力で自らの運命を切り開くなんてことはあってはならないのだ。そんな力を手にしてしまったが最後、ドS姉さんからいじめられる未来を夢見ることができなくなってしまうからだ。ドMというものは、情けないからこそ成立するのだ。もしも俺の身体能力……だけならまだいい、だけど精神力が強くなってしまったら、他人から「意志が強い」と揶揄されるような性格を手にしてしまったら終わりだ。ドMシチュに対して全くの説得力がなくなってしまうし、実際にドS姉さんと知り合えても、そんな俺をいじめようとは思わないだろう。だからドMは、心が強くなってしまったら終わりなのだぐぉっ!


 と、真剣に悩んでいるところをまたもや攻撃されてしまう。


 くそっ、どうすればいい、俺はこのままこいつにやられてしまうのか。

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