SNS疲れ

タロー

第1話 

SNSは便利だ。

でもそのSNSで疲れてしまった。別に、SNSが嫌いだと思ったことは今までなかったのだが最近SNS関係で頭を悩ませていた。

自分はイラストをSNSで投稿している。自分で言うのもなんだが結構上手い方だと思う。実際、イラストだけでSNSでのフォロワーは5万人を突破したほどだ。

だけどこういうところにアンチというものはできるもので、イラスト以外のどうでもいい発言の揚げ足を取ったり、イラストそのものを否定してきたことだってある。

「このイラストはAIで生成しましたよね?」と。

最初は無視していたのだが、それが悪かったらしく

「否定もせず普通に書いたことの証拠を出さないのはおかしい」と言われ疑惑は大きく膨れ上がってしまった。

仕方なく証拠としてレイヤー分けの映像を見せても効果は薄く、最近のAIはレイヤー分けも出来るんだそうだ。


でも所詮こういうのは一過性のもので、放っておいたらそのうち収まるだろうと考えてしまった。実際放ってみたら更に燃えてしまい、噂が噂を呼び気づいたときにはもう遅かった。


で、今に至る。ここまで頑張ってきた結晶がこうも一瞬にして灰と化すとは思わなかった。

こんなくだらなくて証拠不十分で燃えるのは正直言っておかしいと思う。だがそのおかしいのがこのSNSでは普通なのだから自分もそれに合わせるしかないのだろうか。


「人気絵描き、AI落ちか…って…もうまとめサイトにまとめられている。」


自分の活動名を検索をすれば悪い評判がトップに来る。一応ちゃんとわかってる冷静なファンは居るが、一部のファンが暴走しているらしい。火消し活動と言えば聞こえはいいがはたからみればただのレスバトルであり見るに耐えない。


「こりゃしばらく活動休止だな…」


ほとぼりが冷めたころにしれっと戻るしかない。無駄に弁明しても火に油を注ぐだけだからここまで来てしまったらとりあえず鎮火を待つしかない。


「でも、絵を描かないで何するかな。」


思えば絵を描かないときは今まで何をしてたっけ。趣味が絵だったし生きがいも絵だったわけで。

それに特に今やらないといけないことは何もない。平日の昼間だが家におり仕事にはついていない。学生の頃から今までずっとネットで絵で稼いで来た。大学には行っていたが去年卒業して就職活動をしなかった。ちょうどその頃アカウントが軌道に乗ったものだから。


暇、というやつだ。


この暇に対する回答は絵しか持ったことがなかった。暇があれば絵を磨き絵を投稿する。仕事であり習慣にもなっていたはずだがなぜか今はすっぽり絵に対する情熱が消えていた。

やることがなかった。








ふと…ふとだが自分のことを叩いている人のことが気になった。どんな人が叩いているのか気になってしまった。

大した理由はない。本当にちょっと気になっただけだった。

叩いている人物はちょっと検索をかければすぐにたくさん見つかる。なんならDMにも居る。

それらのアカウントのプロフィールや過去の発言を掘り返してみることにした。


***


その結果わかったことなのだが、彼らの特徴に一貫性一見見当たらない。

“一見”だが。

彼らの過去の発言を見返してみると社会に大きな不満を抱えている人が多かった。そして何かと話題のものを批判してる人が多かった。税金、値上がり、成功者のニュース…色々ある。

そしてもう1つの一貫性に気がついた。

何かに打ち込んでいる様子も趣味に興じる様子がなかった。

何かを宣伝するわけでも公開するわけでもない、作るわけでも応援するわけでもなくただただ何かを貶める発言ばかりをしていた。

そりゃ人を貶めるアカウントで何かを公開しようとする人はそうそういないだろうが、それにしても無さ過ぎる。

ちょっとぐらい趣味の発言があったりしても良いものだが…



もしかして人を貶めるのが趣味であり娯楽なのか?

それが打ち込んでいることなのか?



だめだ、頭が回らない。

SNSを閉じよう。


***


暇だけは掃いて捨てるほどあったから散歩にでた。

平日の昼ということでとても静かで、近所の公園に足を運んでみても閑散としていた。

ずっと立っているのも何なのでベンチに腰掛けてぼーっとしてみる。



案外悪くない。

ぼーっとしてるだけなのになんだか気持ちが楽になっていった。

このまま少し一眠り…





ん…隣に誰か座ってる?

座ってる気がした。いや、座っている。確かに座っている。老人だった。おそらく毎日ここに散歩してきているといったような老人だ。その老人とは初対面だったがなんとなくそんな感じがした。


「なあ、君は…今日は休みなのかい?」


「え、まあ、そんなとこです。」


突然話しかけられて少し驚いた。普段見かけない青年とあった老人の方はもっと驚いているかもしれないけど。


「君の仕事は?」


「あっ、絵描きです。絵を描いてそれを売っています。」


「儲かっているかい?」


「人並み以上には…」


「そうかい。なら良かった。」


急に色々聞かれて更に驚いた。年を取るとお喋りになるというが本当だろうか。


「絵を描いていると言ったね。自分の内面を表現する仕事は大変だろう。心が育っていないとできないことだ。これからどんどん心を育てていかないとね。」


「まあ…そうですね。」


やはり年を取るとお喋りになるようだ。おまけにお節介にもなるらしい。


「君はこれから先色んなものに出会うだろう。いい体験、悪い体験、困難、降って湧いた幸運。とにかく色んなことだ。」



「きっと嫌なことの方が多いと思う。楽しいこと、嬉しいことの方が少ない。なぜ生きるのかを考えてしまうことだってある。人生を否定されることも、節を屈しなければいけない時も。」


「節を屈しなければいけないときが、ですか?」


「ああ、嫌なことを真正面から受け入れないといけないときが。」


嫌なこと…か。今の自分にはたくさんある。AI、アンチ、人の内面…


「嫌なことを受け止めたあと、冷静になって後悔をしてしまうかもしれない。ああすればよかった、こうしたらよかった、あああってほしかった、こうやってくれたらよかった。それが全部心を育てていく。」


ちょっと無理矢理な話な気がしなくもないが、言っていることが今の自分には深く刺さった。


「もしかしたら、君は今後悔を重ね、心を育てている最中なのかもしれない。だから、じっくり考えなさい。」


「はぁ…」


なんだか意味がわかったようでわからない話だった。というか結局この老紳士は何者なんだろう

か。


「あの…あなたにも後悔とか節を屈しなければいけない時が?」


「ああ、あったよ。でも君ほど高尚じゃなくてくだらないことだよ。ちょうど君ぐらいの年の時のことだ。今でも後悔してる。」


一体何が?と聞こうと思ったが聞かなかった。なんとなく、それが正解な気がしたから。


「できれば後悔は少ない方がいいんだけどね。君は、後悔しないようにまっすぐにね。」


気づけば、目が冷めたような感覚が襲いかかってきて、老人は姿を消していた。

でも、夢というには余りにもリアルで、はっきりと記憶に残っていた。

まとまりがなかった。夢のような会話だった。

だけど、心はなんだかスッキリとしていた。

嫌なものを見て、嫌な人ばかりで、SNSに疲れたはずだった。

でも、やりたいことは決まっていた。そして疲れはいつの間にかなくなっている。


「絵…描くかな。」

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