【カクヨムコン9短編】サンタになった訳

麻木香豆

🎅

「足音が聞こえたからサンタさんがきたのかなぁって……あとね影も見えた。ぜーったいサンタさんだよ」


 この家に住む5歳の女の子は目をキラキラさせて初めて会ういかつい俺にそう話してくれた。

 俺は冬月シバ。刑事だが強面で大抵の子供は相手にしてくれないのだが、(刑事は強面の方が良い)めずらしい。

 女の子の横に座っていた母親は苦笑いする。


 その日の朝、この家の庭に黒ずくめの男が血を流して倒れて死んでいた。近くには箱も落ちていて可愛いクリスマスの包装がされていた。


「雪がなくても強く突き落とさないと死なない高さだな。打ち所が悪かったな……」

 運がないやつだ、と手を合わせた。







 その後、女の子の母親Sが逮捕された。あの黒ずくめの男は女の子の父親でもあり、Sの元夫でもあった。


 揉めに揉んで離婚したばかり。しつこい粘着質なこの男は住所を突き止めて無理やりこの家に忍び込んだがSに見つかり、突き落とされたようだ。


「シバさん、あの箱はどうしますか」

 そう、あの箱は男から女の子へのプレゼントだ。


 父から娘へのプレゼント。かぁ。


 祖母に引き取られた女の子は母親が仕事でしばらく帰らないと突然聞かされ、泣きに泣いたそうだ。実際のところ事故前も養育費がまともに振り込まれず、Sは何個か仕事を掛け持ちをしていたというがまだこんな小さい子には母親が家にいないのは相当の辛さである。

   





 数日後の夜、俺はインターフォンを鳴らす。

「はぁーい」

 祖母の声だろう。一瞬彼女はギョッとしたが俺を確認して1分後に泣いている女の子を抱き抱えて玄関を開けてくれた。事前に連絡してなかったら俺も突き落とされる……いや、門前払いだ。


 女の子の涙が一気にひいた。

「サンタさん?!」

「そうじゃ。色々あってな、遅れて申し訳なかった」



 俺は今サンタの格好をしている。大きな袋の中からプレゼントを出した。事件現場で見つかった死んだ父親からのと、母親Sからのと、俺からの三つの箱。中身は被っていないといいのだが。


 女の子はとても喜んでいた。

「ありがとう! やっぱりこないだ私の家に来たのはあなただったのね!」

 俺は苦笑いしたがそれは大きな白い付け髭で見えないだろう。そしてしゃがれた声を出した。

「そうじゃよ、渡せなかったから来たんじゃよ」

 女の子は祖母と共にお辞儀をし、見送ってくれた。祖母は泣くのを堪えていた。




 家から少し離れたところにソリでなくて愛車のワゴン、運転席にはトナカイでなくて部下の茜部あかなべが座っていた。


「シバさん、似合ってますね。その格好」

「そうか……近所の人に見られて通報されたらたまらんぞ」

「あと上にこのことバレたらやばいっすよ」

「でーじょうぶだぁ。今は職務外だ」

 お前もトナカイの格好しろよ、と思ったが……。まぁいい。

「玄関から来るサンタなんてなかなかいませんよ」

「屋根から侵入したら誰かさんみたいに突き落とされるからな……」


 たく、死んだ男も……養育費をしっかり払ってたら突き落とされずに済んだんじゃないのかい? Sさんも……なぁ。気持ちは分からんでもないが……早く罪を償って、出てきてこのこのサンタをしてやってくれ。

 今年はあんたらの役割、俺が果たしといたからな。


 俺もよ、小さい頃両親が訳あっていなくなっちまってしばらくの間施設暮らしで辛い思いしたけど施設の人や里親が毎年クリスマスや行事を大事にしてくれたから……まぁひねくれた野郎になったけどこうして生きてられるんだ。

 周りの大人が助けてやらなきゃな。

 



 女の子にとってクリスマスが少しでも良い思い出に上書きされますように……。



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