ケース010 謎の視察

 メアリーさんから逃げるようにギルドマスター用の会議室へ行くと、入り口になぜか全身鎧が立っていた。

 よくわからないまま、全身鎧に一礼して、部屋に滑り込む。


「お呼びですか?」


 めったに使われない会議室には、豪華な円卓が置かれていた。それを囲むように椅子が並んでいて、ギルドマスターの真向かいに身なりの良い男が一人。左右には入り口にいたのと同じ鎧が立っている。


 今日の来客は、相当地位が高そうだ。


「そちらの御仁がな。お待たせしました。これがうちの職員のホンゴーです」


 姿勢を正し、ギルドマスターの横に立って一礼する。こちらの世界は身分制がハッキリしているので、気を抜くと物理的に首が飛ぶ。


「君がホンゴー殿か。まずは座りたまえ」


 言われて、ギルドマスターの隣の席につく。いきなり面接みたいな雰囲気だな。


「少し話をしたくて呼んでもらった。忙しいところすまないね」


 偉そうな男は、上品そうなオーラを放っている。


「いえ。何でもお聞きください」


「ではさっそく、話を聞かせてもらおう。ここに来たのは、この支部の上納金が、ここ一年で三倍になったらしいという話を聞いたからなんだ。そして、ギルドマスターが君を呼んだ。君は理由を説明できるのかい?」


 チラリとギルマスを見ると、小さなうなずきが返ってきた。どうやらこれは生活保護についてのヒアリングらしい。


「自信はありませんが、私がわかる範囲でよろしければ……」


「もちろん、かまわない」


「基本的な話で恐縮ですが、冒険者ギルドの収入はその性質上、冒険者の数と質によって増減します。つまり、ランクの高い冒険者を数多く抱えれば、冒険者ギルドの収入は多くなります」


「それはそうだろうね」


「この数と質に影響しているのが、冒険者の死亡と引退です。死亡に関しては経験不足。引退に関しては怪我や病気などで収入が断たれてしまうことが主な原因となります」


 男は首をひねる。


「死亡はわかるが、引退はわからないな。なぜ収入が断たれると、引退することになるんだ?」


「収入を断たれると、治療費も宿代も食事代も支払えなくなるからです。その場合、そのまま飢えて死ぬか、他人から奪うかしか選択肢がなくなります。いや、治療が受けられずに重い後遺症が残るというパターンもあるかもしれません。いずれにせよ、冒険者ギルドは貴重な人材を失います」


 こないだのグレイさんの師匠のように、他人から奪った者は街にいられなくなるので、山賊も増えてしまう。


「待て。そんなものは収入を一部蓄えておけば良いではないか?」


 冒険者の仕事道具はほとんどが消耗品だ。安物はすぐに壊れるし、高価なものは相応の手入れがいる。しかし持っている道具の質と種類は、冒険者が受けられる依頼の種類に直結して、収入に影響するのだ。


「冒険者は、貯蓄するぐらいなら、新しい道具を買ったり、酒を飲んで新しい仲間を探す生き物なのですよ」


 極端にいえば、計画的に貯蓄する冒険者は昇級できないので、あまり冒険者に向かない。


「なるほど。まぁ平民に計画性を求めるのは酷であろうな」


 微妙に違うが、まぁ良いだろう。細かいことを指摘したら首が飛びそうだ。


「そうですね。その計画性の無さを補うのが、保険制度や生活保護制度です。収入が断たれた冒険者を支援し、最低限の生活と治療を保障することで、破滅を防ぎ、冒険者への復帰を促すことで、人材が失われることを防いでいます」


 男は納得した様子でうなずく。


「なるほど。貯蓄をしなかったのは自己責任だと突き放せば、質の高い人材を失ってギルドが衰えるわけか。考えて見れば、破滅するときに独りで破滅するとも限らないしな。死なば諸共、巻き添えを出せばさらに人材を失う可能性もある」


「おっしゃるとおりです」


 肯定すると、男は満足そうにうなずいた。


「これが、この支部に優秀な冒険者が長く居着く理由か」


 うちのことをかなり調べているらしい。生活保護制度と保険制度の導入によって、怪我や病気からの復帰者が圧倒的に増えたのは事実だ。

 さらに復帰途中の収入源として新人育成する徒弟制度を作ったことで、経験不足から来る死亡率も下がっている。

 おかげで、この街は食糧資源を輸出できるまでになったし、冒険者以外の定住者も増えつつある。


「おっしゃるとおりです。生活保護制度以外にも、冒険者が長く働けるような工夫はいろいろしています」


「素晴らしい。ここで学べることは多そうだな、グラックスよ」


「ええ。ここのところ驚くほど運営が順調です」


 グラックス、という名前に聞き覚えがなかったが、ギルマスが答えていたので、ギルマスの名前なのだろう。


「ふむ。ではここに帝都から部下を数人派遣させてもらおう。君たちの部下として使って、やり方を学ばせてやってくれないか」


 提案ではなく決定なのだろう。ギルマスのドヤ顔がむかつく。


 元いた世界では担当するケース数が百を超えることはざらで、それに比べればこちらは随分楽だが、新人育成は完全に上乗せの仕事となる。しかも、育てたところですぐにいなくなってしまう。


「光栄です」


 ギルマスの返事で、僕に初めての部下がつくことが決定した。

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