第105話 ルーナ VS 斎火の王 1
走り、近付く程に分かる。
強く、肌が焼けるような気配。
実際のところ、肌は焼けてしまっているだろう。それどころか、斎火の王に近付くにつれて周囲の物が焼けてしまっている。それほどまでに強い炎。
しかし、それは片鱗に過ぎない事を、ルーナは知っている。
走る前から見えていた、炎の巨人の姿は今や正確にルーナの眼に捉える事が出来る。
天を貫かんまでの見上げる程の巨躯。存在するだけで全ての物を焼き尽くすほどの熱。歩くだけで発生する地鳴り。
ルーナが見る限り、それは、壊すためだけに存在している。それ以外の用途など知らんとばかりに、その存在はただひたすらに壊す事に特化していた。
人の形はしているけれど、その眼が何処にあり、何を向いているのかは分からない。まるで、出来の悪い人形のように見えるところは、影を纏ったルーナと同じだろう。
「流石に、姿に気を遣っている場面でも無いか」
ルーナは自身に纏わりつかせていた影を散らす。
影を纏うのにも力を使う。斎火の王は、全力を出さなければ勝てない相手だと判断する。
それでも、
ルーナは影から刀を飛ばし、空中で掴む。
この刀は影の国で拾った物だ。出来はいまいちだけれど無いよりはましだ。
今身に着けている衣服も影の国で拾ったものだ。どれも通常の布で作られてものではなく、強靭さ等に優れている。斎火の王の輻射熱
王都から斎火の王の元へたどり着くのに数分を要した。けれど、その間に第二射が放たれる事は無かった。
あの規模の攻撃を仕掛けるのには時間を要するのか、もしくは様子を見ているのかは分からないけれど、ルーナにとっては好都合だ。
ルーナの身体は全盛ではない。自身の想像と齟齬なく身体は動くようにはなったけれど、それでもまだまだ遠い。
それでも、戦わなければいけない。それが、ルーナの任務なのだから。
刀を素早く腰に括り付け、居合の構えを取る。
「――ッ!!」
一閃。
秘剣、陰斬り。
放たれた一閃は斎火の王の身体を斬り裂く。
斎火の王の巨躯を両断し、その命を散らす――
「やはり、駄目か」
――には、至らなかった。
斎火の王の背後の景色が見える程に両断はされたけれど、たちどころに炎が広がって元通りになってしまう。
再生、とは少し違うようにも思える。
生物に限らず、物体は斬られれば断面から崩れていく。特殊な吸着性を持っていない限りは、崩れるはずなのだ。
けれど、斎火の王は構わず歩いていた。そして、両断されたにも関わらずに身体は崩れ落ちる事は無かった。
陰斬りは物体ならざるものをも断ち切る剣技。どんな相手だろうと、受ければ両断は必至。現に、斎火の王は両断された。
「何か絡繰りがあるか」
ともかく、歩く脚は止めなければいけない。
もう一度陰斬りを放とうとしたその時、斎火の王から幾つもの炎の球体が放たれる。
炎の球体は斎火の王から放たれたとあって、民家一軒を丸ごと飲み込む程の巨大なものであった。
だが、速度は遅い。陰斬りで十分に対処が出来る。
そう考えた直後、巨大な炎の球体から幾つもの小さな球体が落ちて来た。それが、霰のように降りしきる。
防御、迎撃、回避。頭に浮かんだ選択肢の中から、ルーナは即座に迎撃を選ぶ。
小石を拾い、氣を纏わせて投げる。
小石が炎の霰と衝突した瞬間、炎の霰が爆発する。その爆発に誘発され、炎の霰が連鎖的に爆発を起こす。
「これは……」
上級魔法を上回る攻撃範囲と威力。
炎の霰は大きさこそ握り拳程だけれど、その爆発の威力は凄まじく、家屋を木っ端微塵にしても有り余るほどだ。
それが、一度で打ち止めではない。
「斎火とは名ばかりだな」
続く第二波。炎の霰が降り注ぐ。
斎火の王が何処までの手札を隠しているのかは分からない。が、これで全てでは無いだろう。
ただ、一軍を殲滅するだけの力を持ち合わせている事は再度把握した。
手を抜いては、死ぬのは自分だ。
ただ、陰斬りが直撃して倒せない相手と言うのは初めてだ。まずは、相手を知る必要がある。
氣を纏った小石で炎の霰を誘爆させつつ、ルーナは一定の距離を取って陰斬りを放つ。
が、やはり両断は出来るものの、直ぐに復元されてしまう。
「面倒な」
そして、三度目の炎の霰が降り注ぐ。
「む」
しかし、一度目二度目とは霰の感覚が空いていた。誘爆を阻止するためにだろう。これでは、一つ一つ対処するしかないのだが、これで炎の霰を対処する必要もなくなった。
一度目で誘爆がある事を確認した。誘爆によってどこに居ても爆発を受ける事が分かったので対処をしていたけれど、誘爆しない範囲で炎の霰が降るのであれば、爆発と爆発の隙間を縫って移動をすれば良いだけの話だ。
なんてさも簡単な事のように考えるルーナであるけれど、常人では不可能な対処方法だ。
上の心配は無くなった。問題は倒し方だ。
斬り続けていればいずれ消滅するのかもしれないけれど、確実に長丁場になる。そんなに悠長に構えてはいられない。
そこに存在している以上、倒せないという事は無いはずだ。
ルーナの頭に、足止めという選択肢は無い。
まず、止める足が大き過ぎる。それに、形に縛りが無いのであれば、大きな落とし穴を作ったり、仮に紐で拘束できたとしても、関係無く復帰できるだろう。
まさに難攻不落。
「――ッ」
相手を見極めるために、再度陰斬りを放とうとしたその時、斎火の王の身体の表面の数ヵ所が一際明るく燃え上がる。
直後、一際明るく燃え上がった個所から、ルーナ目掛けて熱線が放たれる。
炎の霰に注意しながら、ルーナは熱線を躱し、熱線の着地点から大きく距離を取る。
熱線が地面に触れた瞬間に大爆発を起こし、熱に侵された物の全てを破壊する。
「……なるほど」
この段階でルーナはある程度理解する。
相手の攻撃はどれも広範囲殲滅に適している。その巨躯も相まって、多勢を相手にする事に特化している。
技の全てが
恐らくは、一対一の戦いに特化していない。であれば、戦いようも在るというものだ。
熱線、炎の霰に注意をしつつ、ルーナは影斬りを斎火の巨人の脚に向けて放つ。
結果は変わらない。しかし、ルーナもその一撃で全てを決しようとは思っていない。
何処かに、必ず壊せる部分が在る。ルーナの陰斬りであれば、それに実体が無くとも斬る事が出来る。
怪しいと
手、脚、首、頭、胸――連続で斬り続ける。
だが、結果は同じ。直ぐに炎の身体は復元される。
「……なるほど」
斬っても斬っても復元する斎火の王に、しかし、ルーナは焦りを見せない。
斬った時に確かに手応えがあった。足止めのために脚を斬った時には無かった手応えだ。
見えはしない。感覚でしか掴めない。脚と胸を斬った時には手応えが無かったが、その箇所には怪しさを感じた。恐らく、当てていないだけだろう。
両手両足、首、頭、胸。計七ヵ所に
その何かが分からない。斬った手応えがあってもたちどころに修復されるため、そこが正しいのかも分からない。
だが、試してみる価値は十分にある。
「む」
手立てを見付けたその直後、またも斎火の王に変化が。
斎火の王の脚が止まる。
が、次の瞬間――
「――ッ!!」
――斎火の王から、幾つもの熱線と幾つもの炎の霰が同時に放たれる。
そして、明確にルーナに向けてその
明らかに、ルーナを狙った
拳が地面に当たった直後、大地を揺るがすほどの大爆発が起こった。
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