第85話 融合魔法
空に開いた穴の究明もさることながら、無尽蔵に湧き続けるこの蟲の究明も優勢事項である。
無尽蔵のその理由を突き止められれば、突破口が開けるかもしれない。
空の穴。蟲の生態。
その二つが、この状況を切り抜ける鍵となる……のだけれど。
「いやあ、参った参った。どーしようかねぇ?」
パーファシール王国、王城の会議室。そこで、宮廷魔法師達は顔を突き合わせて思案をしていた。
困ったように言うけれど、何処か余裕のあるマギアス。
彼と同じように、魔法師の面々も困り果てたような顔をしている。
理由は王都に張られている結界にある。
耐衝撃耐性及び、対物理耐性に比重を重くしているために、結界から出る事は出来ても入る事が出来ないのだ。
去るものを拒まず、入るものを拒む。そんな結界にしてしまっているのだ。
解析をする準備は整っている。
なのに、帰ってくる手段が無いのだ。
だからこそ、顔を突き合わせて困っているのだ。
「一時的に結界を弱める事は?」
「無理だね。軽く受け止めているように見えるけど、あの蟲の突進は相当な威力だ。多分、自分にダメージが入る事を考慮してない。押し潰されるのも覚悟の上。だから、威力に容赦が無いんだよ」
「では、結界の一部を通れるようにするのは?」
「そんなに都合よくできてないんだな、これが。穴を開けようものなら他が綻ぶ。そうなったら、多分結界は耐えられないだろうさ。行動に対して結果があまりにもリスキーになってしまうね」
「外で解剖をするのは? どうせ調査もするのですし」
「その結果を誰が報告してくれるのかな? それに、その案だとボクは防衛の責任者でもあるから外に出られない。最高責任者として、ボクも解剖の結果はその目で確認しておきたい。ああ、別に君達を侮っている訳じゃ無いから、勘違いしないでよね!」
腰に手を当てて、人差し指を立てながら器用に頬を赤らめて言うマギアス。
自分の容姿が女性に寄っている事を理解しているからこそ、こんなふざけた行動を取るマギアス。
勘違いしそうになる容姿なので男性陣はちょっとそういう行動は止めて欲しいと思ってしまう。
「まあ、冗談はさて置いてだ。勿論、ボクは君達の実力や知見は信用しているとも。ただ、最高責任者として間違った指示は出せない。ボク達は王国民の命を背負ってるんだからね。ボクがこの目で見聞きする事が重要なのだけれど……」
困ったなぁと表情が崩れる。
御口舌を披露するのは良いけれど、肝心の実行手段が無いのだ。
「何処かに無いですかね。結界をすり抜ける手段……」
一人が溜息交じりにそう呟く。
その言葉に触発されたのか、マギアスの阿保毛がぴんっと立つ。
「それだ!!」
「へ?」
「なーんで気付かなかったんだだろう、ボク! うん、出来る! 理論上は完璧だ!!」
一人でわくわく小躍りするマギアス。
しかし、こうしちゃいられないとマギアスは直ぐに会議室を後にする。
「ど、何処へ!?」
「ちょっくら母校に~!」
言って、マギアスは走り去る。
慌てて、部下達はそれを追う。興奮している時のマギアスは、何をしでかすか分かったものでは無いのだから。
〇 〇 〇
宮廷魔法師達が慌てている頃、前線も勿論大慌てで事に当たっている。
「火力薄いぞ!! もっとガンガン撃てぇ!!」
「無茶だけはするなよ!! 魔力切れ起こす前に交代しろ!!」
「結界の近くは丁寧に!! なるべく結界に負荷をかけないようにして!!」
前線に出ている宮廷魔法師達は、絶えず魔法を放って蟲達の数を減らしている。
が、鼬ごっこにすらなっていない。蟲の数は増すばかり。
何度やっても、何をやっても、蟲は無際限に増えていく。
終わりが見えない中での持久戦は、彼等の心をすり減らす。
「これは……」
避難誘導を終え、前線の様子を見に来たペレリスは苦い顔をする。
最初に見た時よりも、明らかに数が増えている。
分かってはいた事だけれど、物量では圧倒的に蟲の方に分がある。
建国以来、結界はあまり使用されていない。理論上の防御力は知っていても、実際に何処まで耐えられるのかが分かっていない。
それに、いつまでも結界を維持できる訳でも無いだろう。
蟲達は仲間の屍骸の山を登って攻め入る。やはり、蟲達に感情等ありはしないのだろう。
ぎちぎちと不愉快な音を立てて結界に牙を立てるも、即座に反撃効果によって吹き飛ばされる。が、それで死ぬわけではない。
身体の欠損で多少動きは鈍るものの、恐怖を与える事も出来なければ、心を挫く事すらできない。
まだ一日と少ししか経っていないけれど、既に皆の顔には疲れと恐れが見え始めている。
「うわぁ……きぼちわるいぃ……」
そんな中、ソニアは呑気に蟲を見て正直な感想を言う。
「ソニア」
「なぁに?」
「一撃、お手伝いしてください」
「うん、良いよぉ」
何をするかも聞かずに、ソニアは笑顔で了承する。
即座に、ソニアとペレリスは両手を前に出す。
「来たれ炎、汝は燃え盛り、猛り狂い、全てを焦がす者――」
「来たれ
魔力が二人の前に集中する。そして――
「「ボルカニック・サンダー!!」」
――
火山のように激しく、嵐のように
蟲達を焼き焦がし、激しく刺し貫く。
余波が地面を抉り、爆風が大きく蟲達を吹き飛ばす。
最早数えるのが億劫な程存在していた蟲が、三分の一程も消滅した。
「ふぅ! ペレちゃんやるぅ!」
「ギルマスこそ。最近魔法を使ってなかったので心配でしたが……どうやら腕は鈍ってないようですね」
「うん! 女の子に格好悪い姿見せられないからね!」
「……それが無ければ、格好良いのに……」
ソニアの言葉に、ペレリスはがっくしと肩を落とす。
二人が行ったのは
二人の魔法を合わせて、一人では出す事の出来ない威力の魔法を放つ
だが、二人がやってみせた程簡単な事では無い。
まず、お互いのイメージが合わないと成り立たない上に、込める魔力の割合も決まっている。込める魔力を間違えても発動はされるけれど、絶大な威力を発揮する事は出来ない。
その上、本来は同じ属性同士で掛け合わせるのが融合魔法だ。主な理由としては、二属性の時のように魔力の割合をあまり細かく考えなくて良いのと、お互いがイメージを作りやすいからだ。
と、散々説明をしたけれど、融合魔法は技術力は高いけれど実用性のあまり無い魔法になる。
そもそも、二人は今の威力を一人で出す事が出来る。そして、今の魔法を一人で行使する事も出来る。
融合魔法は魔力量の少ない魔法師が大きな威力を出す時に使う魔法なのだ。
しかし、融合魔法を行うには高度な技術と並々ならぬ鍛錬が必要だ。加えて、二人以上でなければ出来ないので、基本的に融合魔法を練習する者は少ない。
今この場所で、二人が融合魔法を行う必要は無い。
では何故行ったのかと言われれば、ただのパフォーマンスだ。
これだけの高等技法を扱え、その上でこの威力の魔法を放っても平然としていられる魔力量。
諦めるには、まだ早いと言い聞かせるためのパフォーマンス。
「さて、挨拶はこんなものでしょうか」
「わたし、まだまだいけるわよぉ!」
「いえ、後は若い子に任せましょう。久し振りの実戦です。鈍った身体をならす――」
「ペレちゃん、今自分で自分の事若くないって言っ――ふぎゃっ!?」
余計な事を言ったソニアの頭に拳骨を落とすペレリス。
「ぶぇぇぇぇぇぇん!! ペレちゃんが本気で殴ったぁぁぁぁぁぁ!!」
「余計な事言うからです。まったく……。ほら、行きますよ。作戦会議に顔を出せと言われてるんですから」
「ぶぇぇぇぇぇぇぇっぇぇぇぇぇぇぇん!!」
泣き喚くソニアを引きずるペレリス。
一瞬だけコメディな空間になったけれど、即座に戦場の緊張感を取り戻す戦士達。けれど、肩の力は幾分か抜けたようだった。
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