11 運がいい

 俺はこの状況に理解が追いつかない。


 委員会決めの最中に眠気に抗えずに眠ってしまい、目を覚ましたら教室の前にある黒板、そこに書かれた図書委員という文字の下に俺の名前が書かれていた。

 

 「‥‥‥何故?」


 え、俺ラブコメのシナリオに干渉するようなことしてないよね?

 ただ眠っただけだよね?

 もしかして眠ることすらもダメだったパターンか?


 俺が頭を悩ませていると後ろから肩をポンと軽く叩かれた。

 後ろに視線を向ければそこには本来図書委員になるはずだった我が親友殿が立っている。


 「どうしたんだ、蓮。珍しく困ったような顔して」

 「その通りだ。俺は今困っている」

 「何に?」


 俺は無言で黒板を指差す。

 勇樹も黒板に目をやり、俺が何を言いたいのか理解したようだ。


 「ああ、あれか」

 「説明を求める」

 「まあ、簡単に言うとだな、図書委員の仕事は部活の時間にかぶることが多いから全然決まらなかったんだ。そこで、オレが部活には入らないであろうお前を推薦してあっさり決まったってわけだ」

 「何してくれんだお前っ!?」

 「まあ、授業中に眠った罰だと思え」

 「ふざっけんなっ。お前俺を何だと思ってる!?」

 「親友」

 「こんな親友いらねえよ、クソがぁっ」


 俺は机に突っ伏する。

 親友だと思っていた奴からの裏切りは結構効く。


 ‥‥‥ちょと待て。

 そもそもの話、原作のラブコメで俺と勇樹は同じクラスだったか?

 ふと思い至ったことを確認しようと記憶の底を漁り必死に必要な情報を思い出そうとする。

 そして、何とか思い出した情報に俺の気分は血の底へと沈んでいく。

 

 そう、原作のラブコメでは俺と勇気は別のクラスだったのだ。


 では、何故今同じクラスになっているかと言えば、それは前世の記憶を思い出した時に前世の性格に変わったことが原因だろう。

 よくよく思い出してみれば前世のことを思い出す前と後で勉強に対する取り組み方が変わっていた。

 それ故に成績が変化し、高校でのクラス分けにも影響を与えたのだろう。


 まあ、つまりは一年前の時点でこの世界のルートを大きく変えるようなことをしていたわけだ。

 ちくしょうっ。

 だがまあ、一応の交渉だけ‥‥‥。


 「‥‥‥なあ、勇樹」

 「言っておくけど、オレはやらないからな」

 「何でだよぉっ。もしかしたら本好きな美少女に会えるかもしれないだろう!?」

 「うわっ、肩を掴むなっ。それにそんなことが現実にあるわけないだろう!?」

 「いやいや、お前は主人公だから有り得るんだよ」

 「いや、急に真顔になるなよ。怖いだろ」


 ダメだったか‥‥‥。

 

 俺は面倒なことを押し付けられたショックと、この先勇樹の周りで何が起こるかはっきりとわからなくなってしまった不安から年老いたジジィのような動きで椅子に腰を落とした。




 =====




 俺が図書委員にされて一夜明けた翌日の放課後。

 委員会メンバーでの顔合わせがあるからと俺は2階にある図書室に向かっていた。


 廊下を気だるげに歩きながらふと窓の外に視線を向ける。

 窓の外には学校の正門の様子が見えるのだが、そこでは多くの生徒が友達と話したりしながら楽しそうに正門を出ていく。

 多分、そのまま家に帰ったり友達と遊びに行ったりするのだろう。


 「妬ましい‥‥‥」


 ついつい口から本音が漏れる。


 俺だって委員会がなければ、今頃は電車に乗って優雅な下校時間を過ごしていたというのに。

 家に着いたら制服を脱ぎ捨てて楽な服装に着替え、ソファーに寝転んでだらだらして‥‥‥と、そこまで考えたところで意識を現実に引き戻す。

 今考えてもただ虚しくなるだけだと理解したからだ。


 「はぁ‥‥‥」


 考え方を変えよう。

 図書委員になれば勇樹のヒロインである本好き美少女とお近づきになれるかもしれないのだ。

 別に本好きヒロインは俺の好みでも何でもないのだが、男なら美少女とお近づきになれるだけで嬉しいものだろう。

 うん。俺も嬉しい。


 「楽しみだなー‥‥‥‥」


 声に出してみたけど、ただただ虚しいだけだった。

 はぁ‥‥‥。

 口でも心でもため息を吐いてしまう。


 「せめて、白石さんがいてくれればなぁ‥‥‥」


 またもや本音が口から漏れる。

 白石さんがいてくれれば面倒な委員会も多少はマシになるだろうという思いからだ。

 後は、ほんの少しの下心。

 でも、白石さんも前期で委員会に入ると言ってはいたが、複数ある中で同じ委員会を選ぶなんてことそうそうないだろう。


 「はぁ‥‥‥」


 ため息吐くのが癖になりそうだ。




 =====




 俺は今、自分の運の良さに感謝している。

 何故ならーー


 「まさか相良君と同じ委員会になるとは思わなかったなぁ。これからよろしくね」


 そう、図書委員会には白石さんがいたのだ。


 何という僥倖。

 何という幸運。

 何という奇跡。


 おかげで俺の気持ちは上向きだ。

 自分でも表情が緩んでいるのがわかる。


 「どうしたの相良君?」

 「ん?いや、何でもない」

 「そう?」


 嘘です。

 何でもなくないです。

 すげー嬉しいです。


 白石さんと話していると、全員集まったことを確認した図書委員会の委員長が前に出てきて顔合わせを始めた。

 それぞれ軽く自己紹介を済ませた後、委員長主導で当番決めに移る。


 「それでは図書室の管理当番を決めます。基本的に2人ペアで当番を行ってもらうんですけど、その組み合わせは事前にこちらで決めてあるのでこのプリントを確認してください」


 そう言って委員長が見えやすいように持ち上げたプリントに視線を向ける。

 ゆっくりと視線を移動させていくと、俺の名前を見つけた。

 そしてその隣には白石さんの名前が書いてある。


 今日は運がいい。

 



作者より

更新止まります。

再開は来年の予定です。


 

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