10 委員会決め

 「そう言えば、相良君は委員会どうするか決めた?」


 白石さんと友人関係を結んで以来習慣化した屋上での白石さんとの昼食。

 ちょうど、白米を口に運ぼうとしたところで紙パックのジュースを飲んでいた白石さんがそう問いかけてきた。

 一旦箸で取った白米を口に入れ、飲み込んでから聞き返す。


 「委員会?」

 「そう、委員会」

 「‥‥‥それって全員強制参加?」

 「うん。前期と後期でどっちか選べるけど、参加は強制だよ」

 「‥‥‥めんどくせぇ〜」


 思い出した。

 そしてついつい口から本音が漏れてしまった。


 最近忘れ気味だったが、ここは俺の幼馴染である天沢 勇樹あまざわ ゆうきを主人公としたラブコメ世界だ。

 そんな世界にあるこの青恋高校では定期的にラブコメ的イベントが起こる。

 その内の一つが今、白石さんの口から出てきた委員会関連のイベントだ。


 朧げな記憶をほじくり返してみればこのイベントのざっくりとした概要が思い出される。

 確か、主人公である勇樹がこの委員会決めで図書委員になるんだったっけ?

 それで、図書室で本の貸し借り当番をやっているときにヒロインの1人と出会うって感じだったと思う。

 多分。いや、きっと。絶対。


 そんな感じで記憶の確認をしていると白石さんが下から俺の顔を覗き込んできた。


 「相良君?どうしたの?急に黙り込んで」

 「ん?ああ、いや、少し考え事してただけでーー」


 白石さんの呼びかけに顔を上げると、思わず口が固まり音を発せなくなった。

 同時に視線が一点に吸い寄せられる。


 「相良君?」

 「‥‥‥‥」


 白石さんの声が意識の外に言ってしまうくらいに今の俺は視界には入っている光景に集中していた。

 ただただ、じっ‥‥と一点だけを見つめ続ける。


 その視線の先にあるのは、白石さんの胸だ。


 ブレザーという体のラインが出にくい服を身につけているため普段は全く気がつくことがないその胸の大きさ。

 今はこちらを覗き込むような体勢になっているため、普段あまり見ることのない角度から見ることができておりその大きさをはっきりと視認することができている。

 最初に屋上で会った時から思っていたがやっぱり白石さんの胸はかなりおおきーー


 「ーー相良君っ」

 「俺は何も見てません」

 「え?」

 「え?」

 「「‥‥‥え?」」


 どことなくデジャブを感じるやりとりをした後、白石さんは体勢を元に戻し再度委員会の話を振ってくる。

 あぁ、見えなくなってしまった‥‥‥。


 「それで、どうするの?」

 「ん〜。‥‥‥やるなら前期だな」

 「前期なんだ。どうして?」

 「面倒くさいことは早めに片付けておきたい」

 「へぇ〜。なんか意外。相良君は全力で逃げると思ってた」

 「俺をなんだと思ってる?」

 「ふふっ」


 先日のショッピングモール内のカフェでの出来事のせいだろうか。

 ここ最近、白石さんから今言われたようなことを時々言われるようになった。

 正直、内心をピタリと言い当てられることもあったりするので気が気ではない。


 でもまあ、今回もラブコメイベントが絡まなければ白石さんの言う通り逃げてたとは思う。

 だって面倒くさいし。


 でも、今回のようにラブコメに大きく関わってくるイベントで、主人公の親友という準主要キャラである俺が勝手に動いた場合、シナリオに問題が発生するかもしれない。

 そうなったらこの先の展開がシナリオとは全く違ったものになり、今以上に面倒くさい状況になる可能性がある。

 なので面倒くさいことが何よりも嫌いな俺はその可能性をなくすためにも逃げることはできないのだ。


 「それじゃあ、私も委員会は前期で入ろうかな」


 俺の発言に笑みをこぼしていた白石さんがそんなことを口にした。

 思わず前髪に隠れたその顔に視線を向けてしまう。


 「‥‥‥何で?」

 「せっかく友達になったんだから、帰りの時間を合わせて帰りに寄り道したいもん。一緒に」

 「‥‥‥そうですか」


 いや、なんだこの子。

 可愛すぎないか?

 前髪に顔が隠れていても十分に可愛いし、やっぱヒロインなんか目じゃないわ。

 俺の好みど真ん中だ。

 ‥‥‥本気で堕としにいこうかな?


 そんなことを考えていると予鈴が鳴り、教室に戻る時間となった。

 

 「そろそろ戻らないと」

 「そうだな」


 2人揃って立ち上がると、空になった弁当箱の入った袋を持ってそれぞれの教室に戻った。




 =====




 「ふぁ‥‥‥‥眠い‥‥‥」


 どうも、蓮です。

 現在、所属する委員会を決めるにあたってそれぞれの委員会の仕事の説明を受けています。

 すごく眠いです。


 今教壇に立って話をしているのはこのクラスの担任であり、勇樹のラブコメヒロインの1人である女教師ーー吉宮 玲奈よしみや れなだ。

 俺たち生徒は自分の席に座って静かにそれを聞いている。

 委員会に入る上で仕事内容はどれだけ楽をできるかを判断する基準であるためしっかりと聞いた方がいいのだが、昼下がりの午後であり、それなりに日の光があたって暖かくなるこの席では凄まじい眠気がそれを邪魔してくる。


 基本的に自分の欲に忠実である俺はその眠気にだんだんと夢の世界に引っ張られていた。

 何とか意識を保とうと自分の手の甲をつねってみるが全く痛みを感じない。

 痛覚よりも眠気の方が勝っているようだ。


 だんだんと閉じていく瞼と共に揺らいでいく意識。

 楽をするためにもなんとか起きていなければ、と意識を保とうとするがなんの意味も成さない。

 もう、この状態を保つことが辛くなってきた。


 ‥‥‥あぁ、もういいや。

 寝るか。

 俺はあっさりと意識を手放した。



 

 次に起きた時。

 主人公がなるはずだった図書委員に俺がなっていた。

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