5 友人
角を曲がった先にいたのは長い前髪に表情が隠れた1人の女の子。
俺が入学式の日に指をさした子だ。
前髪に隠れて表情はわからないがこちらを向いていることはわかる。
お互いに向き合った状態で動きが止まる。
‥‥‥‥。
この状況、どうしよう。
なんかあっちも動こうとしないから何となく動けない。
え、俺ずっとこのままなの?
昼休みそんなに残ってないけど。
俺、昼飯なしになるの?
そんなことに危機感を抱きつつも動けないでいると、女の子の方から声をかけてきた。
「あ、あの‥‥‥」
「え、あ、はい」
「とりあえず、座りませんか‥‥‥?私だけ座ってるの、なんか落ち着かないです‥‥‥」
「あ、はい」
女の子の言葉に従い、その隣に腰掛ける。
もちろん1人分くらい間をあけた。
すぐ隣に座るほどの度胸を俺は持ち合わせていない。
でも腰を下ろしたはいいが、ここから先どうすればいいのかわからない。
いや、弁当を食べればいいんだろうがこの状況では食べにくい。
ほんと、どうすればいいんだよ‥‥‥。
「あ、あの」
「ん?」
制服の袖を引っ張られる感触と共に聞こえてきた声に顔を向ければ、女の子が目の前にいた。
頭一個分くらいの間を開けて顔と顔が向かい合う。
‥‥‥近くない?
距離、近くないか?
まあ、俺としては女の子のいい匂いもして幸せだからいいんだけど。
あ、今気がついたけどこの子かなり胸がおおきーー
「ーーあのっ、聞いてますかっ?」
「俺は何も見てません」
「え?」
「え?」
「「‥‥‥え?」
胸を見てることがバレたのかと思ったけど違ったらしい。
でも、俺の発言のせいで会話が噛み合わなくなってる。
よし。
怪しまれる前に修正するか。
「その、もう一回言ってもらってもいい?ぼーっとしてて」
「えっと、はい。私、
「俺の名前は
「えっと、じゃあ、相良君」
「はい、相良君です」
「ぷふっ」
あ、吹き出した。
顔を伏せた状態で肩を振るわせている。
そんな面白かったか、今の返し。
"相良君"って響きが気に入ったから言っただけなんだけどな。
「す、すいません。お、面白くて」
「いや、別にいいんだけど。あと、敬語使わなくていいぞ。俺もタメ口だし」
「あ、はい。わかりーーじゃなくて、わかったよ相良君」
「はい、相良君です」
「ぷふっ」
あ、ダメだこれ。
会話が続かなくなる。
今回は2回目だからか1回目よりも早く回復した。
目に涙が浮かんでいる。
そんな面白いか?
「で、俺に何か聞きたいことでもあったの、白石さん?」
「あ、うん。えっと、相良君はどうしてここに来たのかなって気になって」
「あ、あ〜‥‥‥」
「あっ、言いたくなければ言わなくていいよ。ただの興味本位だから」
「いや、別に言いたくないわけじゃないんだよ」
教室でぼっち飯を食うのが辛くて逃げて来ました、なんて情けなくて言いにくいことこの上ない。
でもまあ、白石さんなら大丈夫かな?
だって俺と同じ
「何と言うかさ、俺、まだ友達がいなくて昼飯の時も1人なんだよ。それでさ、今までは教室の自分の席で食べてたんだけど、最近ふとした瞬間の周りの目線が居た堪れなくてーー」
「わかる!わかるよ、相良君!」
「うおっ!?」
すっごい食いついてきた。
顔もさっきより近づいて鼻と鼻がくっつきそうだ。
いや、それよりも前髪がさわさわと顔に当たって痒い。
すごく痒い。
「実は私も友達いなくてね、相良君と同じ理由でここに来たの」
おっと。
まさかまさかの理由が一致。
思ったよりも気が合いそう。
「それでね、相良君にお願いがあるんだけど‥‥‥」
そこで白石さんは言葉を切り、少し迷うような仕草をした後顔を上げて言った。
「私と、友達になって欲しいっ」
「‥‥‥‥」
言われた言葉の意味を理解するのに時間がかかった。
まさかこんなことを言われるとは思わなかった。
いや、返事はもう決まってるようなものなんだけど。
「あの、ダメ‥‥ですか?」
「今日からよろしく」
これを断れる奴がいるのなら俺の前に連れて来てほしい。
俺が今感じている感動を三日くらいかけてゆっくりと語って聞かせてやる。
まあ、それはともかく俺は高校初の友達ができた。
「や、やったぁっ。あ、ありがとう相良君っ」
白石さんが俺の手を両手で握ってくる。
おお。
女の子の手ってこんな柔らかいんだ。
最高かよ。
俺がそんな感想を抱くと同時屋上に風が吹いた。
「きゃっ」
風が白石さんの前髪を持ち上げ、これまで見えなかった白石さんの顔が見えた。
風が止んだ。
「今の風、少し強かったね。相良君?」
「‥‥‥すっげぇ美少女」
俺の口からそんな言葉が溢れた。
だってしょうがないだろ。
前髪が風で上がった時に見えた白石さんの素顔。
それはこの世界のヒロインにも勝るほどの可愛さと美しさを兼ね揃えた美少女だったんだから。
「えっ、もしかして今、顔が見えて‥‥‥?」
「‥‥‥はい」
「‥‥‥ぁ」
「あ?」
「ああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
「えっ!?ちょっとぉぉぉぉ!?」
何がいけなかったのか、白石さんは恥ずかしそうに叫び声を上げながら走っていってしまった。
チャイムの音が聞こえてきた。
「あ、俺、結局昼飯食べてない」
‥‥‥どうしよう。
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