2 始まりの朝 - 幼馴染と
この世界に転生していると気がついたのは多分、一年前だ。
俺の幼馴染兼、親友兼、この世界の主人公である
勇樹が口にした高校名、そして俺と勇気のフルネームが何故か頭の中で引っかかったのだ。
その時はわからなかったのだが、家に帰って妹の優と戯れている時に唐突に気がついた。
俺、転生してるわ、と。
でも、前世の記憶がバァーっと蘇るなんてことはなくただただ転生している、と言う事実に気が付いただけだった。
一応前世のものらしき記憶はあるんだが、そのどれもがこの世界の元となったであろう物語の内容だけだ。
それも断片的。マジ使えない。
前世の俺がどんな人物だったのか、年齢、性別、人間関係etc‥‥‥などの記憶は全くない。
まあ、そのおかげ、と言うのも何となく癪なのだが、日々の生活を自然体で過ごすことができている。
あーでも、前世の性格についてだけはわかった。
何故かって?
それは簡単、転生していると言う事実に気がついた翌日から物事に対する考え方が変わったんだよ。
それは俺自身も実感したし、周りの人間からも「変わったな」と言われることが多くなった。
思いつく原因と言えば転生していることに気が付いたことくらいだから何となくそうなんだろうと思ったわけだ。以上。
そんな感じで1人頭の中で情報の整理をしていると右側から服の袖をクイクイッと引かれていることに気がつく。
そちらに目を向ければ俺より背の低いマイシスターがつぶらな瞳で俺のことを見上げている。
「おにい、ゆうこっちだから」
「ん?もうそんなとこまで来たか」
「ん。プリン楽しみにしてる。じゃね」
「さらっと兄にプリンを買って来させようとするな」
今日から中学三年になる優は俺の言葉を最後まで聞くことなく中学校の方向に走り去って行った。
‥‥‥逃げられたって感じしかしない。
いや、実際逃げられたんだろうな。
クソが。
優と別れた後は勇樹と2人で最寄りの駅までの道筋を歩く。
俺達が通う高校はここから3駅ほど離れたところにあるので電車通学になるのだ。
勇樹とたわいもない会話をしていると後ろからタッタッタとリズミカルな足音が聞こえてきた。
それは俺達の直線上の後ろから聞こえてきており、だんだんと近づいてくるにも関わらずそのペースを落とす気配が感じられない。
身の危険を感じた俺はいつでも動けるように身構える。
そして、その足音の主が突っ込んできた。
「2人とも!おはよーーおぉ!?」
後ろから俺と勇樹の方を抱くようにして突っ込んできたソイツは、俺が体を外側にずらしたことによりバランスを崩して地面に倒れ込んだ。
ちなみに優樹は巻き込まれる前に何とか踏ん張って耐えている。
あ、倒れた。
「ちょっとー!ひどいじゃん!何すんのさ、蓮!」
「知るかっ。毎回毎回突っ込んでくるなって言ってんだろうが!」
「むぅ!」
地面に倒れた姿勢のまま俺に文句を言ってくるのは俺と勇樹のもう1人の幼馴染、
俺の髪よりも若干暗めな茶髪をショートカットにしており、女子の中では高い身長を持っている。
そして何を隠そう、コイツはこのラブコメ世界の幼馴染系ヒロインなのである。
幼馴染ヒロインと言えば物語開始時点で主人公に対して恋心を持っていることが多いが、もちろんコイツも例に漏れない。
主人公であり幼馴染である勇樹にベタ惚れである。
それはもう見ているこっちがうんざりするくらいにはベタ惚れである。
だが、コイツは性根がヘタレなので小学生の時から勇樹に恋心を抱いているにも関わらず今日に至るまで告白なんて一度もできていない。
昔何かの弾みで俺がコイツの勇樹に対する恋心を知っている、と知られて以来コイツの恋愛相談に付き合わされていたりする。
「ほら、早く立て。高校の入学式に遅れるぞ」
「いてて‥‥‥こうなっている原因の一部がお前だって気づいてるか、蓮?」
「‥‥‥何のことやら」
「はぁ‥‥‥」
勇樹の言葉に明後日の方向を向きながら応えるとため息を吐かれた。
失礼な。
「まるで俺が悪いかのような態度じゃないか?ええ?」
「うわっ、ガラ悪っ。そんなだから女子から嫌われるんだよ、わかってる?」
「嫌われてねえ。避けられてるだけだ」
「それ同じことだぞ」
幼馴染2人から呆れたような視線を受け取りつつ駅に向かう。
駅に着いたらICカードを使って改札を通り、時間通りにやってきた電車に乗り込む。
外の景色を置き去りにするように走る電車に揺られること数分、目的の駅で降りて改札の外へ出る。
そこからまた3人並んで高校までの道を歩き始める。
歩いている間にみのりが勇樹に好みの女のタイプの話を振っていた。
勇樹の好みを知ろうとしてる魂胆が見え見えだ。
途中俺に手伝え的な目線が向けられたが無視して歩き続ける。
そこから視線の圧が強くなった気がするが無視するに限る。
やがて高校にたどり着いた。
今日から俺達が通うことになる勇樹が主人公のラブコメの舞台、青恋高校。
いかにもな名前だ。
字からして青春と恋愛をくっつけたってところか?
アホらしい。
心の中でそんな悪態をつきながら校門を通り、自分のクラスを確認するためにクラス分けが書かれている掲示板に向かう。
掲示板の前には人だかりができていて前が見えにくい。
何とか自分のクラスを確認しようと四苦八苦していると隣から呑気な声をかけられる。
「ねえ、蓮」
「なんだよ。俺は今忙しいんだが?」
「あんたの女の子の好みは?」
「は?」
そちらに顔を向ければしたり顔でニヤリと笑うみのりと興味のありそうな顔の勇樹が目に入る。
どうやら先ほどの女の好みの話はまだ続いていたらしい。
みのりのにやけ顔がスッゲーうざい。
「それよりも今はクラスの確認をーー」
「この状態じゃ確認できないでしょ。それよりほら。言ってみなよ」
「オレも蓮の好みには興味あるな」
逃げ道を塞がれた。
こういった時のこの2人は異様な執着を見せることが長年の付き合いでわかっている。
下手に誤魔化しても後々答えを聞くために付き纏ってくるだろう。
だが、俺は今逃げられればそれでいい。いいのだ。
さて、どうしたものかと周りに視線を巡らせると1人の女の姿が目に入った。
腰のあたりまで伸びた綺麗な黒髪、顔は長い前髪に隠れていて見えないが何となく美少女のような雰囲気がある。
俺は無意識にその子を指さして、口を開いていた。
「この子」
「「ん?」」
「この子、俺の好みだわ」
「「は!?」」
「ふえ?」
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