ラブコメの親友キャラの俺、隠れ美少女なモブを堕とす
猫魔怠
1 始まりの朝 - 兄弟仲良く
何もしなくていい、何も考えなくていい、今この瞬間だけを謳歌していればいい。
そう思ってしまう心地良い微睡の中、その心地よさを破壊しストレスの溜まるような音が鳴り響いた。
うるせぇ‥‥‥。
だんだんと浮上してきた意識でもって現実を認識する。
まだほんの少し肌寒い空気の中に手だけを出し、ストレスの溜まる音を止めようと手を動かす。
‥‥‥見つからない。
さては寝ぼけてベッドの下に落としたか。
だったら我慢しよう。
しばらく放置していれば勝手に止まる。うん、そうしよう。
外に出していた手を布団の中に引っ込める。
至福の温かさ。
「ん‥‥‥んぅ‥‥‥」
ストレスの溜まる音を少しでも軽減するため布団をかけ直そうとすると隣からそんな声が漏れる。
俺ではない。
俺はこんな可愛らしい声は出せないし、出そうものならものすごく気持ちの悪いものになる。
「んぅ‥‥‥うるさい‥‥‥」
再度聞こえた声に開くことを拒否している瞼を無理やりに少しだけ上げる。
開いた視界に映り込んだのはその顔にほんの少しの苛立ちを滲ませている1人の少女。
「おにい‥‥‥とめて‥‥‥」
「‥‥‥その前になぜここにいる、マイシスター」
そう妹である。
俺ーー
セミロングにした艶のある黒髪に美少女と言っても過分ではない整った顔、そして小柄な体躯に見合わない大きな胸。
普通に自分の部屋に自分のベッドを持っている妹が、俺のベッドに潜り込み猫のように丸まって眠っている。
昨日眠る時には俺は確かに1人だったはずだ。
完全に意識をなくすまでに誰かが部屋に入ってきたような気配もしなかった。
つまり、コイツは俺が眠ってからこのベッドに入ってきた確信犯ということだ。
「んぅっ‥‥‥おにい、時計止とめて。うるさい‥‥‥」
「そもそもお前が俺の部屋に入っていることがおかしいんだが?」
「‥‥‥むぅ」
むすっとした顔でノロノロと起き上がった優はベッドの下に落ちていた時計を拾い上げると、片手を思い切り振り上げてバンッと思い切り叩きつけた。
「おい!?俺の時計が壊れるっ」
「‥‥‥ふん!」
=====
朝食を食べ終え洗面所で歯を磨いていると優がやってきて俺の隣で歯を磨き始めた。
2人仲良く並んで口の中で歯ブラシを動かす。
「おにい」
「なんだい、マイシスター?」
「ゆう、プリン食べたい」
「今さっき朝ごはん食べたばっかりだろ」
「それとこれとは話が別」
シャコシャコ歯ブラシを動かしながら話をする。
歯ブラシしてる時に話すと口の端から垂れそうになるんだよなあ。
でも優を無視したらそれはそれでめんどくさいことになる。
具体的には家の中で延々とくっつき回るようになったり、ソファーでくつろいでいると横から物理的なちょっかいをかけてきたり、寝てる時に軽く首を絞めてきたり。
いや違う。
最後のは本気で怒らせた時だけだ。
まあ、ともかく無視をすると拗ねてめんどくさくなる。
「帰りに買ってこいってことか?」
「違う、今買ってきて」
「俺、今日入学式なんだけど?」
「おにいの予定は聞いてない」
「俺にもっと優しくしてくれない?」
「無理」
妹の理不尽な要求に抵抗しながら洗面器に泡立った歯磨き粉を吐き出す。
歯ブラシを洗って元の場所に戻し、手の中に水を溜めて口を濯ぐ。
口を濯ぎ終わるとそのまま手に溜めた水で顔も洗う。
冷えた水で洗ったことで顔と気分がすっきりとする。
横に置いておいたタオルで顔を拭いていると体を押され、鏡の前からどかされる。
「おにい邪魔」
口を濯ぐ優にそう言われる。
お兄ちゃん悲しい。
妹に邪魔と言われた俺はシクシクと心の中で涙を流しながら自分の明るい茶髪をセットする作業にうつる。
髪を櫛で軽く溶かしてワックスを手に取って広げる。
髪全体にワックスを馴染ませ、優の後ろから鏡を見ながら微調整をしていく。
春休みの間に死ぬほど練習したから失敗することはない。
俺が髪のセットを終えたタイミングで優が下に向けていた顔をあげ、鏡越しに髪のセットが終わった俺の姿を目に収める。
「お〜。おにい、いつもよりカッコイイ」
「だろ?」
「目が腐ってなければ満点」
「一言余計だ」
「大丈夫。おにいの良さはゆうにしか分からない」
「それフォローになってないからな?俺のガラスのハートを余計に傷つけてるだけだからな?」
優に心を弄ばれた後自分の部屋に戻る。
壁にかけられた制服を手に取り、それに袖を通す。
「苦しい‥‥‥」
第一ボタンまできっちり止め、ネクタイも上の方で結んだが苦しくて緩める。
ついでに第一ボタンも外す。
スマホを鏡がわりに使って自分の姿を確認する。
うん。いつも通りのイケメンだ。
カバンを肩に掛けて部屋の外に出て、まだ自分の部屋にいる優に声をかける。
「優ー、俺もう行くぞ」
「待って。ゆうももう行く」
少し待つと中学の制服に身を包んだ優が部屋から出てきた。
2人揃って玄関まで行き、靴を履く。
「忘れ物ないか?」
「おにいこそ大丈夫?」
「勿論だとも」
「じゃあ、ゆうも大丈夫」
「じゃあって何だよ」
優が若干不安な返事をしたが気にしないことにして扉を開き、外に出る。
家の外では幼馴染が俺達を待っていた。
「お!遅いぞ2人とも。オレまで遅刻したらどうしてくれるんだよ」
「おー、すまんな主人公」
「主人公」
「本当に何なんだよそれ」
俺と優の言葉に苦笑いと共にそう言っていくる幼馴染。
まあ、そうだろうな。
それが普通の反応だ。
でも、この世界の主人公がお前であることは本当なんだよ、幼馴染。
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