第20話

 犬達のおかげで大きな怪我は増えていないが数も減り魔力も底が見えてきた。そろそろ撤退を考えるべきだろうな。見失う事を危惧して粘っていたが俺一人じゃどうしようもなさそうだ。

 最初は溶かしてやんぜ!と息巻いて魔法を放っていたが熱を持たせて金属ボディを赤くさせるのが精一杯だった。


(とりあえず今は逃げるか。セナクと合流出来たらその時また考えよう。)


 弾幕を張れる程魔力も残っていないけど一発くらいなら大丈夫だろう。俺は下水に向かい火を放ち蒸気をあげさせる。水蒸気の中でも俺は犬を頼りに、って


「おぅっえぇぇぇくっせぇぇ!!」


 汚水蒸気やっべぇ。アイロラさんとか関係なくこの場から離れないと臭いで死ぬ。形振り構わず逃げだした。背後からは嘔吐く音と怒声が聞こえてた。




 不本意だが臭さのおかげで距離を取ることが出来た。それにしてもやばい臭いだった、犬達はよくあれで死ななかったな。と思ったがどうやら猟犬達は匂いを情報として識別しているだけで嗅覚としてあの臭いを感じている訳ではないらしい。動物に近い感覚で接していたがあくまでスキルという事か。鑑定結果だけに囚われていると不味そうだ。


 回復薬を飲んでいるとようやくセナクと合流することが出来た。液体金属の説明に手こずり作戦だけでもと伝えていると怒声がこちらに近付いてきた。


 俺は下水路の曲がり角手前に腰をおろした。逃げるのに力尽き休んでいたと思わせ油断を誘うのとセナクを角の奥に潜ませ奇襲してもらうためだ

 待っているとアイロラが現れた。多少冷静になってきているようだが表情に怒りの色が見える。


「ようやく見つけたわよ!よくもコケにしてくれたわね。ぶっころしてーー

「ファイアウォール」


 俺はやつの台詞を無視し残りの全魔力を火に変え放つ。奴にダメージを与えられている様子はないが予定通りだ。アイロラを溶かすまでには至らないが赤熱している。これで俺の役目は終わりだ。


「今だっ‼︎」


 奥に隠れていたセナクに合図を送る。アイロラは突然の乱入者に驚く。俺は変身前の幼女セナクが飛び出して来た事に驚く。そういえば説明に時間を取られ魔法少女姿になっていなかったな。せっかくの奇襲が…。


 セナクはブローチを掲げ叫ぶ。

「換装」


 セナクに大きな白い翼が生えると小さい体を隠す様に包み込む。頭上からは雪の結晶が降り注ぐ。そして勢いよく翼を広げ羽根が舞い上がる。俺はセナクの演出を何度も見ているのに翼の動きに吊られ上を見てしまう。セナク曰くこの間に服装がドレスに変化しているらしいがその様子は何故か見ることが出来ない。それはアイロラも同様らしい。


「みんなを守る青い星デネブハート見参」


 セナクはモコモコのついた帽子を被り決めポーズをとるのだった。

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