第19話
犯人と思われる子どもの匂いは侵入・逃走経路ともにすぐに途切れてしまい追えなくなった。宿の厨房に突然現れ消えたとしか思えずこの日は諦める事となった。
それからも金属が盗まれる事件は続きこのまま青領の物資が減り続けると俺の安全性に支障が出ると思い猟犬を放つ事にした。セナク経由で手回しもしたので住人に魔物が出たと混乱することはないだろう。そうして調査していくとすぐに共通点が浮かび上がった。匂いは厨房やトイレなど下水に繋がる場所から侵入・逃走しているらしい。
匂いの元が子どもと言う先入観から下水管のような細い管を移動出来ると思っていなかった。下水処理施設から地下に降りると例の匂いがあちこちにあるようだ。俺には悪臭が充満しているようにしか感じられないけど。セナクとは手分けをして調査する事にした。そして周りを警戒し歩いているとくすくすと笑う声が聞こえてきた。
杖を構える。周りからは笑い声に加え何かが這いずる音もしている。音がだんだんと大きくなってくると周りの下水管から銀色の液体が溢れ出てきた。液体が集まり迫り上がると人の形に変化していく。
「あら、餌が迷い込んだと思ったらまた貴女なのね。計画を邪魔されたくないし、魔王軍幹部『流銀のアイロラ』が始末してさしあげますわ」
そう言うと腕を振り上げる。こちらとはまだ距離があるので魔法を警戒するが何も詠唱せず振り下ろす。すると腕が鞭のようにしなりながら伸びてくる。距離があったため何とか反応し杖で防げた。今度はこちらの番とダッシュで近付きアイロラの脳天に杖を叩きつけた。すると何の抵抗感もなく地面まで振り抜けた。辺りには水溜まりが拡がっている。
(あーそういう敵か。きっと金属の硬さにもなれるぞ、こいつ。剣山みたいに針を生やして反撃とか最悪体内に取り込まれたり…うわぁ)
敵の能力が予想出来たので水溜まりから距離を取る。液体が迫り上がると再び人の形を作りだした。
「残念ね。覗き込んできたら目を貫いてあげようと思ったのだけど。こうやって」
そう言うと両手の指を俺に向ける。指先が尖りこちらに向かって迫る。予想通りだけど10本の同時刺突攻撃なんてどうしようもない。
案内させていた猟犬に襲わせ片腕を封じる事は出来たが残り5本。
必死に躱し杖で打ち落としライアの火魔法で破壊する。爆煙で眩ませれたのか1本は頬を擦る程度で済んだがもう一方で肩を貫かれてしまった。めっちゃいたい。利き腕ではないけど手が上がらない。おっさん姿時の四十肩が可愛く思えるわ。
久しぶりの痛みに戦意が萎む。犬を大量召喚し1匹はセナクを呼びに走らせる。残りはやられないように引き気味に撹乱させる。俺は犬の影からライアと一緒に火魔法を放つ。予想では熱が弱点のはずだ。溶鉱炉でもあれば沈めてやりたい。ライアに頑張ってもらい炎の壁で囲うも溶解には至らなかった。
「小細工は終わりかしら」
相変わらずくすくすと笑いこちらを煽ってくる。むかつくが、多分必殺技使っても無駄そうなんだよなぁ。あの誘拐事件で見ててこちらの手の内知ってるからこその余裕だろう。
セナクー早く来てくれー。
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