弱い設定、強い能力

 女神はポカンとしている。


「いや、あの、私の査定項目的に『質より量』が求められているんですが…」

「だめだ。俺は『質』を求める。こんな駄作のまま終わらせてたまるか。おい、魔王!」


俺の呼びかけに「はい!」とはっきり返事をする魔王。


「お前がなぜ魔王になったのか説明してみろ!」

「え、あの、親父が先代の魔王で、この前引退したから…」

「弱いよ! 設定が弱すぎる! もっと使命とか、運命とか、宿命を背負えよ!」

「えぇ…」


だめだ、どう転んでも俺はこの戦いにドラマを生み出す事ができない。なぜなら、俺たちには圧倒的に『設定』が不足しているからだ。俺がこの世界に転生した意味も、魔王と戦う意味も、魔王が俺を倒さなければいけない意味も不足している。


「えぇい、さっきから言いたい放題言いおって! もう終わりにしてやる!」

「あ、ちょ、そのセリフは…!」


魔王が両手に青黒い炎を集めだす。その力、というかに呼応するよう俺の身体も光を放つ。


「喰らえ! 私の全身全霊をかけたこの一撃!」


魔王の放った炎の玉は魔王城全体を震わせるほどの威力で、地面や壁などに炎が燃え移っていた。


「(くそ、さすがにこの魔法には勝てないんじゃ…!)」


と、一瞬思いもしたが、俺の身体が魔王の炎を難なく跳ね返した。跳ね返った炎は魔王の元へと戻り、魔王は自身の炎に包まれた。


「ぐ、ぐおおおお! 私の炎を跳ね返すとは、貴様…まさか天使族の生まれ変わりだな?! ぐ、ぐあああああ!」

「いや、違うが」


魔王は勝手に倒された。塵となった魔王はどこからか吹いてきた風に乗って、城の外へと流されていった。

 天窓から急に差し込んできた日差しが、この物語の終焉をそれとなく告げていた。


「やりましたね! ユウタ様! よーし、これで一つの世界を救うことができました! さ、次に行きましょう!」

「…不完全燃焼すぎる」


こうして、俺の初めての異世界冒険譚が幕を閉じた。

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