悪魔
「えぇい! やかましいぞ勇者!」
魔王はそう言って俺をめがけて黒い炎を放つ。
「そうだ! そうやって吐き出せ! お前の感情を! そして語るんだ! お前自身の設定を!」
俺はあえて炎を避けなかった。この戦闘に動きを持たせるためだ。この魔王はどうせ俺の魔法で一撃で葬れてしまう。
魔王の炎が俺の身に触れかけたその時、俺の身体が光を放つ。その直後、炎は俺を避けるように飛び散った。
「き、貴様、なぜ闇魔法除けの防具を装備しているのだ?!」
「くそ、この防具そんな効果あるのかよ!(というか絶対今『超・主人公補正』が発動したよな?!)」
どうにか魔王から『物語』を引き出そうとしている俺を見て、女神が苦言を呈する。
「ゆ、ユウタ様! 変なことしないでさっさと倒してください! じゃないと私のポイ…この世界を危ないです!」
ん? アイツ、今なんかポイから始まる言葉を言おうとしていなかったか? 俺が知っているポイから始まる言葉は…
「…魔王、ちょっとタンマ!」
「は、はぁ?」
「俺たちの今後に関わる重要な会話をしてくる」
「いや、でも、貴様と私は魔王と勇者だから、タンマとか…」
「待ってて、くれるな?」
俺が再度お願いをしたその瞬間、俺の身体が輝きを放った。また『超・主人公補正』が発動したようだ。俺の言葉に服従するように魔王は動きを止めた。
「(な、なぜだ、なぜ動けない…! まさかアイツまた古代魔法を…!)」
仕組みはよくわからないが、とりあえず魔王が動きを止めたので女神の元へと俺は駆け寄った。
「お前、さっきポイ…って言いかけたよな?」
「は、はて、なんのことでしょうか」
「いやいや、無理があるだろ。そしてお前絶対『ポイント』って言いかけたよな?」
「ぽ、ポイント? ナンデスカその言葉。あーユウタ様の世界の言葉ですかね、いやー伝わらない伝わらない」
「…」
女神は引きつった口角のまま、目が泳ぎまくる。
「…世界を救うことで、何らかのポイントが得られるんだな? お前」
「ギクっ」
「おい、今ギクって言ったろ! あんま口から出ないからなその擬音!」
「あせあせ」
「汗まで口から出てきてるじゃねぇか! それもあんまり口から出てくる擬音じゃないからな!」
「ち、違うんです! 違うんですよ!」
「何が違うか言ってみろ!」
俺は女神の両肩を掴み、問いただす。
「ユウタ様! 落ち着いて! 話せばわかります! 私の深い事情を!」
「良いだろう。ただし、その事情とやら次第ではこんな戦い放棄してやるからな!」
魔王はキョトンとしている。というか、なんかちょっと申し訳無さそうにしている。
「私は見習い女神で、とにかくたくさんの世界を救う必要があるんです! 中級女神に上がるまでの査定ポイントには『救った世界の数』しか定められていないので、サクッとこの項目をクリアしたかったんです! ほら、真っ当! 至極真っ当!」
「査定、ポイント…?」
「はい。なので、ほら! 勇者ユウタの名のもとにあの憎き魔王を! バーンっと!」
女神が魔王を指差し、魔王はビクッとする。
女神のめちゃくちゃな言い分に怒りを抑えられなくなった俺は、女神に右手をかざす。右手は炎をまといだし、女神の鼻先はチリっと音を立てた。
「ちょっと! 私に向かって古代魔法を打とうとしているでしょ! この人でなし! 陰キャ童貞ろくでなしー!」
「おま、言いすぎだろ! ってか、お前のくだらないポイ活に巻き込まれてたまるか!! さっさと元の世界に戻せ!!」
「もう戻れませんー! あなたは私と契約してしまったので、私の昇給を叶えるまでは開放されませんー!」
女神は開き直ったようにそう言った。
「契約?! そんなものした覚えないぞ!」
「あなたがぽっくりいってる間に渡しが勝手に結んだんですー! ちなみに私が命を落とすと、あなたも永遠の地獄に魂を焼かれる契約にしていますー!」
「悪魔か!!」
女神の悪行に魔王も小さく「ひでぇ」と呟いた。
「あーくそ、ふざけやがって! どうせ後戻りできないなら、俺は俺の欲望のままに進めさせてもらうからな!」
「よくぼう…?」
「俺は、俺のやり方で最高の物語にしてみせる! こんなクソみたいな設定の物語をクリアしてたまるか!」
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