第110話:大人の誕生日 その7
「すりゅ……って、やっぱり酔ってない?」
「よ、酔ってないもん!」
「では、問題です! 人気デッキ構築ローグライク『Slay The Spire』で、ボスから入手できるエナジーレリックを四種類答えてください!」
「ししおどし! 壊れた王冠! ルーニックドーム! ベルベットチョーカー!」
確かに酔ってないみたいだ……。
「……じゃあ、本当にするけどいいの?」
「うん……いいよ」
「……分かった」
改めての了承の言葉を受けて、深く息を吐き出す。
俺の膝の上で横に座っていた光も身体をこっちに向けて、対面する形になる。
「んっ……来い!」
照れ隠しなのか、少しふざけた口調で目を瞑る光。
両肩に手を置かれたので、こっちはその下で腰に手を添える体勢になる。
「先に、一つ……ルールを決めておこうと思うんだけど」
「ルール?」
そう言うと、目を開けた光が聞き返してくる。
「ルールというか約束というか……それ以上のことは絶対に無しってことで」
「何それ~……まるで私が興奮したら自制が利かなくなるみたいな言い方……」
まるでじゃなくて、その通りのことを言ってます。
「いや、光がじゃなくて互いにってこと……」
とは流石に言えなかったので、適当な言葉で誤魔化す。
「私は全然大丈夫だけど黎也くんはどうかな~? 我慢できるのかな~?」
「いやいや、そもそも俺が言い出したことなんだから俺が我慢できないと」
「ふ~ん……だったら、どうぞ」
そう言って、再び光が目を閉じる。
前置きが色々と続いたが、これでもう言うべきことはなくなった。
後は実際にするだけ……自分と光の舌を……絡め……。
彼女の唇を見据えながら実際の行為を想像すると、急速に恥ずかしさが込み上げてきた。
舌と舌を絡めるなんて、ほとんどセッ……じゃないか……?
「ん~……」
とはいえ、光は既に完全なスタンバイ状態になっている。
あれだけ啖呵を切った手前で今更引き下がることもできない。
意を決して、彼女の身体を引き寄せる。
顔を傾けて、唇と唇をチュッと軽く触れ合わせる。
向こうも流石に緊張しているのか、身体のこわばりが少し伝わってくる。
それをほぐすように、ついばむようなキスを何度か繰り返す。
繰り返している内に自然と接触時間が長くなる。
そうして背中に回しあった手が抱き寄せる力が強くなるのと反比例して、互いの唇にあった硬さがなくなっていく。
まるで溶け合っていくように、互いの境が喪失していく感覚が心地よい。
これまではここまでが俺たちにおけるキスという行為だった。
けれど、今日はその一歩先にまで踏み込まないといけない。
唇を触れ合わせたまま、ゆっくりと開いていく。
向こうもそれを合図と受け取ったのか、力を抜いて俺の動作に同調する。
いよいよ、その時が近づいてきている。
これまでのキスとは一線を画す、決して人前ではできないような大人のキス。
自分の一部を光の体内へと侵入させることに、背徳感のような興奮が湧き上がる
口腔内からゆっくりと舌を伸ばし、開かれた唇へと向かわせる。
そうして、自分のものとは違う呼気の暖かさを感じた直後――
――ぴとっ……。
ちょうど互いの中間地点よりも少し向こう側で、舌先が何かに触れた。
少しの湿り気と肉感のある弾力に、直に感じる生の体温。
そして、何よりも筆舌には尽くしがたい官能的な感触。
直後、まるでジャンプスケアを喰らったように互いが瞬間的に身体を引き離した。
抱き合いつつも目一杯に身体を離しながら、見開いた目を向かい合わせる。
言葉はなくとも考えていることは一致していた。
『これはまじでやばい』
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