第63話:水着を買いに行こう その2
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「……っ!! っはぁ!!」
「黎也くん、大丈夫……?」
「だ、大丈夫……ちょっと、ジョエルとかエアリスと久しぶりに会って話してただけだから……」
水着の光が心配そうに覗き込んできたのを手を伸ばして制止する。
あ、あぶねぇ……衝撃のあまりに、まじで半分逝きかけてた……。
ただ、その
顔を上げれば、朝日光(アローラのすがた)がそこにいる。
「大丈夫なら、そろそろ感想を聞きたいんだけど~……」
手を後ろで組みながら、いじらしく尋ねてくる。
「めちゃくちゃ似合ってる……と思う」
「え~……それだけ~……? もっと具体的にどこが良いとか無いの~……?」
「具体的にって言われても……あんまり詳しくないし……」
「ほら、黎也くんの大好きなお腹も出てるよ……?」
「別に大好きって程じゃ……」
嘘だ。
上下に分かれたセパレートタイプの水着のちょうど中間点。
爽やかな色の水着に挟まれた白の聖域。
実は最初からずっと、そこに視線が釘付けになってしまっている。
「え~……黎也くんがこれ選んだの、絶対にお腹目的だと思ってたんだけどなぁ~……」
「お腹目当てって、そんなわけ……一体、俺のことをなんだと思って――」
「ふ~ん……じゃあ、見なくてもいいの?」
そう言って、光は悪戯な笑みを浮かべながら両手でお腹を隠そうとする。
「なんちゃって! うそうそ、嘘だからそんな悲しそうな顔しないでよ~……」
「だから、俺をなんだと思ってるの……」
と答えながらも、そんな露骨な顔をしてしまってたのかと表情を作り直す。
「それじゃ、次のに着替えるからまたちょっと待ってて!」
カーテンがシャっと閉められて、再び中から着替えの音が聞こえてくる。
あ、危なかった……。
後数秒でもあれを摂取していたら気がどうにかなるところだった。
いや、安心するのはまだ早い。
これからまだ九着分も同じことを繰り返さなければらない。
同じ試着室で前の時みたいなことが起こらないように、平常心を保ち続けろ。
次なる衝撃に備えて、心の防御を固めようとするが――
「それじゃ、開けるねー」
身構えるよりも先に、再びカーテンが開かれた。
今度は二つ目に選んだ水着を纏った光が現れた。
朝日光は言うまでもなく、超が何個も付くレベルで可愛い。
しかし、本人の普段のファッションは女子的な可愛らしさよりも爽やかさやスポーティさを意識している節が見られる。
つまり、ファ◯タよりもカル◯スウォーターのCMに出演するタイプの美少女だ。
そんな彼女が今はガーリーさMAXのパフスリーブ付きのトップスに、レースのスカートがついた白いボトムスを身に纏っている。
結論から言うと、その普段とのギャップに俺は二度目の死を迎えた。
「これ、ちょっと可愛すぎてなんか恥ずかしいかも……」
本人もその自覚があるのか、恥ずかしそうにもじもじとしている。
「あ、あんまり似合ってないよね……? 普段、こういうのあんまり着ないし……」
「いや、すごく似合ってるし……めっちゃ可愛いと思う……」
「ほんと?」
「うん、さっきのと同じくらい似合ってる」
「え~……でも、それじゃほんとに選べなくなっちゃうじゃん」
ニマニマと嬉しそうに笑いながら光がその場でクルっと一回転する。
レースのスカート部分がふわっと持ち上がり、下からビキニパンツがチラッと見えた。
「そこは、全部着てから最後に決めればいいじゃない?」
「そうだね。じゃあ、次のに着替えよっと!」
褒められてもやっぱりまだ恥ずかしかったのか、二つ目の水着を早々に切り上げてカーテンをが締められる。
続いて出てきた三つ目の水着は、上下一体のワンピースタイプ。
色やデザインも含めて、これまでで一番落ち着いた雰囲気の水着。
もちろん似合っていて、抜群に可愛かったが前二つで慣れたのか死ぬような衝撃を受けるほどじゃない……と思ったのも束の間。
試着室の鏡に、大きく開かれた背中が映っているのに気がついて死亡。
それからも何度も何度も、それぞれ異なる魅力の水着姿に殺され続けた。
――――――
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――
「それで、最後だっけ?」
そうして持ってきた十着全ての試着が終わり、満身創痍の精神状況で光に尋ねる。
何とか理性を保ちきり、本日最大の試練は乗り越えられた。
後は十着の中から実際に買うものを選ぶだけだが、正直言ってどれも百点満点で甲乙が着け難い。
それでも流石に全部買うわけにはいかないよな……と脳裏に焼き付けておいた朝日光(SSR水着Ver.)のTierリストを作ろうとしていると――
「その……実はもう一着あるんだよね……」
カーテンを閉めようとした手を止めて、光がそう言った。
「もう一着?」
「うん、試着室に来る途中に良さそうなのを見つけて……それも着てみていい?」
「もちろん、俺は構わないけど……」
ここまでくれば、十回死ぬのも十一回死ぬのも対した違いはない。
けれど、着るのにわざわざ俺の了承を得ようとしたのは何故だろう。
頭に浮かんだそんな疑問の答えが、直後に眼前へと提示された。
「実は……こういうやつなんだけど……」
半分だけ開いたカーテンの隙間から、光が持ち上げた最後の一着が明らかになる。
上下ともに余計な装飾の一切が排除されたシンプル且つ大胆な純白のビキニ。
これまでの水着と比べても一目見ただけで分かる布面積の小ささは、その名前の由来通りに俺へと今日最大の衝撃を与えてきた。
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