エピローグ

「我が孫よ、おかえ——」

 デクランが言い終わる前に、ルアは彼の顔面を蹴る。

 爺が倒れたのを確認して、ルアは自室に飛び込んだ。

「……」

 思考の大半は主。上の空でいると、ドアからひょっこり義父が顔を出した。

「ルーちゃん疲れたでしょ、初仕事だもんねぇ。ロクにご飯食べてきてないと思うから、一緒に食べよ~」

 一家の夕餉ゆうげは遅い。仕事上、毎日8時半頃だ。

「まあ僕がルーちゃんと居たいだけなんだけどねぇ」

 窒息死するかと思うほどに強く抱擁するアーモスをって食卓へ向かう。「あなた、わたくしの娘に何をしているんですの?」と目を細めたシャーロットが叩き落としてくれた。痛みに悶える義父を呪おうかと本気で考える。

「呪いあ」

「ちょっま、ストップ‼」

 手で口を塞がれる。

うぁいへ(はなして)

 力の限り暴れるルアに、レーガンまでもが話しかける。

「今日、ルアちゃんに服を買ってきたのよ。きっと似合うと思うから、着てみてほしいわ」

 もみくちゃにされながら、ルアは何とか脱出する。ルイの後ろに隠れて縮こまった。

「おっと」

「主、皆こわい」

「「ええっ」」

 ガーンとショックを受ける家族。

「——でも」

 ルイの後ろから出て、晴れやかな笑顔を向けた。




「ルア、楽しい」




窓から入る月光とちらつく粉雪が、影を作って少女を照らし出す。

人形のように整えられた端麗な容姿。月を思わせる銀の髪と、快然な感情が渦巻いている限りなく白に近い灰色の眼。


ルアの名を与えられた少女はこの日、〝〟。

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邪眼使いは奴隷に落とされ日々を謳歌する 天之那弥日(アメノナヤビ) @yu-zu-ri-ha

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