第5話 フェア=ミドガル国立学園

「学園?」

 屋敷で生活を始めて少し。

 毎日ロリコンに追われてメンタルが持たない。

 そんな日々に、アーモスが「学園は如何するの?」と口にした。

「学び舎だよ~。4年生まであるんだ。ルイも行ってるけど、手抜いてるし。今は冬休み中」

「……ぁるじ、きく」

 駆けてルイの元へ向かう。かくかくしかじか説明すると、ルイは不敵に笑った。

「ふーん、そういうことならいいよ。学園は何一つ楽しいことはないし、ほんとにいいの?」

「……ぁるじ行く、ルアもぃく」

 奴隷は何処までも主一筋。

 表情筋が緩んだルイは、許可を出してくれた。

 素早くアーモスの所へ戻ると、よしよしと頭を撫でられる。

 素早く手を振り払い、威嚇の態勢を取る。最早条件反射だ。

「わぁその顔はOKオッケー出してくれたってこと? じゃあ早速手続きしに行こっかぁ。まあ試験あるけど大丈夫。裏ワザがあるんだよねぇ」

 裏ワザとやらを使って、それほど簡単に試験免除ができるだろうか。眉間にしわを寄せていると、アーモスに手を掴まれて、窓から飛び降りた。

 何が何だか分からず、周りの景色がどんどん変わっていく。色が混じり合ってくらくらした。

「あっはっは。楽しいでしょ」

「……吐く」

「やめて」

 笑顔でストップをかけられる。

 着いたところは、それはもうぜいを尽くした建物だった。

「フェア=ミドガル国立学園だよ。貴族専用で、プラス皇族も通ってるんだからスゴイよねぇ」

 アーモスは受付の令嬢へ話しかけた。

「ねぇ、この子を試験免除で入学させてよ。おねが~い☆」

 茶目っ気たっぷりにアーモスが手を合わせるが、令嬢は首を横に振る。

「現在学園では、皇族以外試験免除が認められておりません」

「うわぁ、辛辣。まあ裏ワザ使ったら如何どうってことないから~」

 ルーちゃん見ててね、とはしゃぐ父に拳を叩き込んで、茶番を見ていられずに顔を背ける。

「はいこれ」

 ガチャリと金属の音がして、視線を戻すと其処には大量の金貨があった。

「全額学園に寄付してあげるから、この子を入学させて? 勿論試験免除で」

「ふえっ⁉」

 その額に声を漏らす令嬢。ルアはその状況を遠目で眺める。

「……(¥)」

「あ、そう言えば名乗ってなかったっけ。僕はアーモス・アズライール。ほら、『死の天使』って知らなーい? 僕達の一族アズライールには逆らうなって、教えてもらわなかったの?」

「ひぃっ」

 名を使って、その権力を最大限に発揮していた。アズライールは『死の天使』の二つ名を有している。実在する天使の名だ。

「……ぉどし……」

「この子は僕の娘だよーん。ルア・アズライール。デクランから溺愛されてる子ー」

 可哀想かわいそーだよね、目付けられちゃってさ、とアーモスが茶化している。

 金で物を言わせてからの、家名の威光を存分に使った上での脅し。

 ルアはドン引きしていた。裏ワザとはこのことなのか。

「申し訳ありませんっ、貴方様がアズラーイールの御方だとは露知らずっ——」

 令嬢が青くなる。

「僕に盾突く君は、い~らない」

 アーモスがバッと手を伸ばす。細い黒の糸が宙を舞って、令嬢の体に巻き付いた。糸は変形して、刃になった。彼女に視線を移すと、もう首が落ちている。ルアはそれを傍観した。

殺し屋アズライール殿」

 振り向くと、髪を高く結い上げ目を伏せた女性がいた。周りの護衛や服装からして、学園関係者だろう。

「どうか、ここまでに」

「ルーちゃん、この人は学園長」 

 こそっと教えられた情報に、ルアは何も答えない。

「あー、まあ。これ以上手を汚すのも面倒だし、もう止めといてあげる。回収するの面倒だから金貨はあげるよ。その代わり、娘は学園に入学させてね☆」

「承知致しました」

 こうして事は丸く?収まった。



「こちらの方がよくてよ」

「いいえ、この方が」

 母と祖母が、二種類ある女子生徒用の制服で、ルア用にはどちらのデザインにするかと争っている。

「……((*´Д`))」

 退室しようとすると、二人は一斉にルアへ手を伸ばした。

 あっという間に着替えさせられ、彼女達の着せ替え人形にされる。

「リボンを付けたらよいのではなくて?」

「スカートは膝丈にしましょう」

 もう如何にでもしてくれと、ルアは脱力した。



 そのままあれよあれよという間に入学を迎え、ルアはルイの後ろに張り付いて学園を散策する。

 この学園は学年ごとにABCとクラスがあり、成績でクラスを分けている。ルアは実力不明なのでBクラスで、ルイはAクラスだ。Aクラスはルアの教室から遠く、ルアはむくれる。

「……や」

「はい、大人しくして?」

 じたばたするが、主の一言でぴしりと硬直する。そんな二人を遠巻きにする生徒。

 ルアの学園生活は孤立から始まり、孤立に進み始めた。

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