第4話  アズライール家

 アズライール家は『殺し屋の一族』だ。闇の使い手、闇魔術師の家系。

 家族構成は、祖父、デクラン・アズライール。

 祖母、レーガン・アズライール。

 父、アーモス・アズライール。

 母、シャーロット・アズライール。

 皆、世界に名を馳せる大物ばかりだ。

 ルアは夕餉ゆうげに連れ出され、一家の前に立った。

「この子はルア、僕の奴隷だよ」

 ルイが紹介をする。

 くぅ、と小さなうめき声が聞こえた。デクランが下を向いてぷるぷるしている。

「ぁあ、い‼」

 横腹に爺が突撃してくる。

「っ」

「ワシにもついに孫‼ いい響きじゃわい」

「……ろりこんじじぃ」

「分かるか、これが愛だ!」

「ろりこん」

「愛いのぉ」

 母はツンデレだったが、爺はデレデレだ。

「こら。ルアちゃんが困っていますよ」

 レーガンが歩み寄り、デクランの頭を掴み上げる。骨がきしむ音がした。

「いででで」

「ごめんなさいね。この人はおかしいのよ」

「……(こく)」

 レーガンはデクランを掴んだまま蹴り飛ばした。

「ぁー」

 吹っ飛んで、頭から壁に突っ込むデクラン。ルアはレーガンのことを地雷だと刻み込んだ。

「やり過ぎではなくて?」

「いいえ。こんな老いぼれには適切な対応ですよ」

 今までの会話でルアは悟った。この家では女性軍に軍配が上がっていることを。

 席に付いてパンをかじりながら外の景色を眺めた。レンガの家が並ぶ路地ばかりが見える。暗視のこの眼では、暗闇でも視界は良好だ。

 殺し屋は仕事柄人目に付かない住居が適切なのだが、標的ターゲットが人であることと同時に生活面を考慮した結果が街中の邸宅らしい。

 と、黒い影が前を横切った。次いで、ガシャンとガラスが割れる音。

「ただいまぁ。今日の仕事は片づけてきたよん♪」

 窓から入ってきたのは、茶髪に緑の瞳の男性だった。

「この子が噂の。ルーちゃんって呼んでもいーい?」

「この人が僕の父親」

 ルイがそっと耳元で囁く。それにしてもこれが父とは。

「ルーちゃん、僕のことはパパって呼んでね~」

「……(イヤイヤ)」

「つれないなぁ」

 反抗したが、それが彼の好奇心を刺激したようで頬を突かれる。

「ゔー‼」

 ルアは威嚇した。危険人物の気配がする。

「まっいいや。この子はもう娘なわけだし」

 何故そのような思考に至るのか。

「ゔゔゔゔ」

「孫が冷たい」

 レーガンがデクランを叱っている。ガーンとショックを受けたらしい爺は、メソメソ泣き始めた。

「ぎゅってしてもいいかのぉ?」

「……(や)」

「へぐっ」

 拒絶の言葉と共に、デクランの顔面へ掌底しょうていを叩き込む。爺は鼻血を出して倒れた。

「ルーちゃん♡」

「どっか行ってっ」

 次から次へとやって来るロリコンに、最早恐怖を覚える。ルアは勢いを殺さず、甘ったるい声音の父を叩き飛ばした。

「我が娘ながら手痛いっ」

 暫く、拒否する少女の声と癒しを求める者の断末魔だんまつまが響いた。

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