裸の王様のディナー

みなもとあるた

裸の王様のディナー

 むかしむかしあるところに、本が大好きな王様がいました。


 王様は毎日のように本を読んでいて、いつも召使いや国民たちに読んだ本の内容を話していました。


 そんなある日、王様のお城に二人の男たちがやってきます。


 その男たちは、自分たちを世界一の小説家だと名乗りました。


 王様のところにあいさつに来た男たちはこう言いました。


「私たちは隣国からやってきました。この国にはたいそう本好きな王様がいると聞いて、ぜひ王様のために小説を書いて差し上げたいと思ったのです」


 それを聞いた王様は、こう言いました。


「ほう、世界一の小説家が私のために小説を書いてくれるとな。それでは、上等な部屋と十分な報酬を用意してその者たちに小説を書かせてやるがよい」


 それから男たちは、王様の用意させた豪華な部屋にこもって毎日小説を書き進めました。


 大臣が男たちの様子を見に行くと、男たちはいつも忙しそうにペンを走らせています。


 大臣は、男たちがどんな小説を描いているのかとても気になってこう尋ねました。


「君たちは一体どんな小説を書いているのだね?世界一の小説家というからには、さぞ特別な小説を書いているのだろう?」


 すると男たちはこう答えました。


「はい、私たちが書くのは、バカには決して文学性を理解できない小説です。本当に文学を理解している人間が読めば、私たちの小説はたいそう素晴らしいものに思えるでしょう。しかし、にわかの本読みが私たちの小説を読めば、それはきっとくだらないものに思えるでしょうね」


 それを聞いた大臣がおそるおそる書きかけの小説を読んでみると、大変困ったことに、大臣にはその小説がとてつもなくくだらないものとしか思えなかったのです。


 しかし大臣は自分がバカだとは思われたくなかったので、こう言いました。


「これはなんと素晴らしい小説なんだろうか!これだけ文学性に溢れていれば、王様も喜んでくれるに違いない!」


 その日からも、男たちは小説を書き続けました。


 他の大臣や召使たちも書きかけの小説を読みましたが、みんな自分がバカだとは思われたくないのか、口を揃えて素晴らしい小説だとほめそやしたのです。


 そしてついに小説は完成し、王様の元に届けられました。


 もちろん王様もその小説の噂は聞いていたので、自分がその小説を面白いと感じられるのか、とても心配になりながら読み始めました。


 王様がページを開くと、こんなことが書いてありました。



 これは僕が大学生だった時の話なんですけど、バイト先にマジいい感じの女の先輩がいたんすよね。いや、名前はもう忘れちゃったんすけど。


 なんかこんな風に落ち葉とか見てるとそん時のこと思い出してきて、「あーマジ今あの先輩何してんのかな」ってエモい気分になるんすよね。


 いや、マジ似合わなww僕が落ち葉でエモくなるとかwww詩人かてwww


 まあ一応その先輩と一時期いい感じだったんで。結局付き合ってたのかよく分かんないっすけど、僕の部屋で酒飲んでヤッたことも何回かあったし、お互いに嫌いではなかったんじゃないすか?


 まあ、考え方によっては付き合ってたのかもしんないし、付き合ってなかったのかもしんないし、よく分かんないっすね。


 付き合ってるつもりだったのは僕だけかもしれないっすけど、でも恋愛って結局そんなもんじゃないっすか?


 で、その先輩はいっつも同じ銘柄のタバコ吸ってたんすよ。


 こだわり?なんすかね。かっこつけなのかもしんないすけど、とにかくいっつもおんなじ銘柄。ベッドの上でいつもそれ吸ってるから部屋中の物に匂いが付いちゃって。


 だからその匂いを嗅ぐたびに先輩のこと思い出して「うわマジなっつ!」ってなるんすよ。


 で、一回その銘柄にこだわる理由聞いてみたら、なんか前の男がどうこう言ってたんすよね。


 一応あれじゃないすか?僕と先輩は付き合ってんのか付き合ってないのか微妙なラインじゃないすか?だから他の男の名前とか出されると若干萎えるんすよね。


 でも一応気にしてないふりして話聞いてたら、「この匂いを嫌いになれるように吸い続けてるの」みたいなこと言い出したんすよね。


 いやマジ意味わかんなくないすか?wwwめっちゃ前の男のこと引きずってんじゃんってwww


 でもまあ、僕も結局そのタバコの匂いで先輩のこと思い出してるんすから人のこと言えないっすけどwww


 あ、そういや最近後ろ姿だけめっちゃ先輩に似てるコンビニ店員が居たんすよ。


 いや別に好きになったとかじゃないっすけど、この前その店員からも同じタバコの匂いしたんで、「これワンチャン運命じゃね?」ってことで声かけようと思ってんすよ。



 王様は、正直この小説がめちゃくちゃつまらないと思いました。


 でも、もし正直につまらないと言ってしまうと、自分がバカだということを認めることになってしまいます。


 だから王様はこう言いました。


「やはり世界一の小説家というのは本当だったのだな。実に素晴らしかったぞ。大臣よ、すぐにこの小説を本にして、全国民に配って読ませるのだ」


 王様の命令を聞いた大臣は、すぐに本を出版する手配を進めました。


 そして数日後、国中の家に本が届けられ、王様は国民たちに直接感想を聞きに行ったのです。


 国民たちは内心つまらない小説だと思いましたが、皆自分がバカだとは思われたくなかったので小説を大げさに褒めて王様に感謝しました。


 でも、その様子を見ていたひとりの少女はこう言ったのです。


「ねえママ、どうして王様はあんなにしょうもない文章を嬉しそうに読んでいるの?」

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裸の王様のディナー みなもとあるた @minamoto_aruta

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