第2話 ミカンの缶詰


もう、遥かに昔の童謡に、「みかんの花咲く丘」という、懐かしい歌詞の名曲がある…



みかんの花が 咲いている

思い出の道 丘の道

はるかに見える 青い海

お船が遠く かすんでる


黒い煙を はきながら

お船は どこへ行くのでしょう

波に揺られて 島のかげ

汽笛がぼうと 鳴りました


何時か来た丘 母さんと

一緒にながめた あの島よ

今日も一人で 見ていると

やさしい母さん 思われる


…解説の文章を参照すると、この曲の舞台は、神奈川県の伊東市で、作詞は加藤省吾という人らしい。「里の秋」を作詞したのも同じ人で、ラストには「戦後最大の名曲」と、謳われている。


 が、翌日にラジオの生本番があって、作詞を依頼された加藤氏は、慌てて30分でリリックをコンポーズしたらしい。


 作曲は海沼実さんという人だが、作曲も所要時間30分。ラジオの収録現場へ向かう列車の中で作ったらしいです。たった一時間で、このノスタルジックで、旋律も叙景も 優しくて物哀しいいかにも「ふるさと日本」のフォークソング、という 畢生の名曲は出来たらしい。


… …


 もちろん、昼間は枝に生った新鮮な生の蜜柑を、美少女の”蜜柑”はいつも食べているのだが、夜には「缶詰ミカン」もよく食べるのだった。昔ながらの「缶詰のミカン」、橙色の果肉が艶々していて、舌の痺れるような、あのシロップ漬けの甘さにも捨てがたい魅力があった。もちろん既に皮を剝いているのをどんどん食べられるというところも缶詰ミカンの良さだった。


 「桃の缶詰」、もちろん缶詰と言えばモモ、あれの美味しさは蜜柑を凌いでいるかも?桃の場合はなんというのか、果汁の味に独特のよくわからないプラスアルファがある。「桃源郷」とか、「不老長寿の桃」とか、そういう伝説に似つかわしい、独特の神仙?的な深い風味や味わいがある…桃の花の、馥郁として、一種エロチックな色合いや美しさも、蜜柑は好きだった。清純でセンシティヴな少女は、”桃割れ”していてピンク色で和毛にこげに覆われている、桃の実の色や形、香りにもいわくいいがたい唯一無二な妙味を感じるのだった。


 活発で饒舌な蜜柑は、こういう同じ感懐、感覚を、もっと稚拙な表現ながら、ひたすら一生懸命にお母さんに説明するのが日課というか、日常の習慣だった。


 <続く>




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詩小説・『蜜柑』 夢美瑠瑠 @joeyasushi

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