詩小説・『蜜柑』
夢美瑠瑠
第1話 由来
(これは、今日の「ミカンの日」に因んで、連載開始した短編?です)
…英語だと、日本の蜜柑は、tangerine と綴るらしい。
夕陽に照らされる、丘陵の中腹の蜜柑畑の中に座って、少女が蜜柑を食べていた。
それ自体が”太陽のお洒落な隠喩”を思わす、オレンジ色の楕円形の果実は、蕩けるように甘くて、瑞々しくて、風味も爽やかだった。
石垣のイチゴを捥ぎ取ってすぐ食べるのも、ちょっと独特の酸っぱい味がして美味しいが、蜜柑も、とれたて?は”自然”の香味があるというのか、新鮮で、5割方味がよくなるという気がした。
ずうっと、南国にある、付近のミカン農家で生まれたので、その少女は、茶目っ気に富んだ祖父に「蜜柑」と名付けられた。
美柑という女性はときたま見かけるが、この果物の「蜜柑」が名前というのは珍しくて、希少な価値だけはある感じだった。
苗字は「橘」で、「橘 蜜柑」。”柑橘類尽くし”、のなんだか甘美でまろやかな、馥郁とした香りが漂ってきそうな、可愛くてきれいな名前というイメージになった。
蜜柑自身もしかし、名前負けは決してしていない、美少女に成長しつつあった。
丸まっちい輪郭に、艶々した頬とサラサラの髪。
祖父譲りの黒目勝ちで整った顔立ちと山村の育ちらしい野性的な逞しさという特徴に、四六時中おやつに食べている新鮮な蜜柑のビタミンCや、ペクチン、ヘスペリジンなどのポリフェノール…果物の蜜柑ならではのユニークな美容健康成分効果が相俟って、名前に相応しい元気溌剌で健康的な美質を涵養して…13歳の蜜柑は瀬戸内海のその離島きっての”リトル・マドンナ”、さる文豪の名作に因んでそういう異名をとっているほどの”アンファン・テリブル”に成長したのである。
… …
<続く>
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