女神と魔王の模擬戦


ーー和樹ーー


『双方よろしいですか?』

「あぁ」

「いつでもいいよ」


 俺は軽く剣を握り、咲希はその場で軽く跳ねて構えを取る。


 仮想空間ということもありお互い全力を出す予定だ。


『それでは──』


 俺はアルスの声に耳を傾けながら模擬戦が始まる前のことを思い出す。



 ***



「俺の映像記録って……」

「和くん凄いかっこよかったよ」

「お兄凄かったんだね」


 紅茶と茶菓子を食べながら映像の感想を聞く。中々恥ずかしいものだな、これ。


「それで模擬戦はいつするの?」

「覚えてたんだな」

「もちろんだよ」

「俺はいつでもいいけど……咲希は?」

「私もいいよ。でも紅茶とかは飲み終わってからね」

「それは当然」


 また紅茶に口を付けて1度話を切る。


「会議の結果だけ報告しておく」

「ん」

「魔王軍は幹部を主導として各都市の奪還を実行する。それと同時に敵の戦力、目的の把握も行う。これが大体のやることだ」

「私たちはなにをするの?」

「咲希と明日香はなにも決まってない。明日香はそもそも戦場にいくには実力不足だしな」

「私は意思次第ってことね」

「そうだな」

「じゃあ模擬戦やってから決めるよ。その方が決めやすいし」

「わかった」


 その後も少し会議の内容を話してお茶会は終了し模擬戦へと移った。



 ***



『──始め!』


 スピーカー越しのアルスの声で俺たちは同時に動き始める。


 咲希は一気に距離を詰めてきて強化された拳を繰り出してくる。それを剣で弾きつつ魔術による反撃をする。


 俺の背後に作った魔法陣からガトリングの様に何百発の銃弾を放つ。放つのは当然こっちに来てからお世話になってる超電磁砲レールガンだ。


「《墜ちろ》」


 咲希がそう言うと同時に全ての銃弾が着弾前に勢いを失ってその場に落下していく。


 一瞬銃弾に向けられた咲希の意識を掻い潜って接近し俺は剣を抜く。


「《氷華六連》」


 以前アルスに放った氷華の派生技。最初の構えこそ同じだがこちらは六連の斬撃を放つ。


 全てが必殺の威力を孕んだ斬撃を咲希は全て手の甲で弾いて俺との距離と少しも変えない。


「《付与》」


 咲希の全身を青いオーラが包み込む。それを見て俺は反射的にその場から大きく離脱する。


 その瞬間咲希の拳が先程まで俺がいた空間を貫く。空間が歪む程のその一撃は当たれば確実に死をもたらしていたことを証明している。


「《限界突破》」


 どうせ仮想世界と割り切って後から代償のくる限界突破を行い咲希の強化に負けないようにする。そして能力を起動する───


「《改造コンバート、オートモード》」


 今度は魔法陣ではなく無数の武器が俺の背後に現れ完成した傍から咲希に向かって発射されていく。


「《撃ち落とせ》!」


 咲希も魔弾のようなものを生成し俺の武器に対抗する。それでも俺の方が生成量が多いので幾つかを躱し、弾き距離を詰めてくる。


 俺は先程のように至近距離で戦わないように徹し、咲希との距離を保ち続ける。


「《散華》!!」


 神獣の首を落とした斬撃を放つ。神獣の時とは違って十字状に高速で跳ぶ斬撃を咲希は正面からあっさりと破壊して何事も無かったかのように戦闘を続ける。


「……いくよ」


 戦闘の轟音に潰されて僅かにしか聞こえなかった声が耳に届くと同時に咲希が目の前に現れる。


 その振りかぶった拳を避けれないと判断した俺は剣を両手で支えて盾のようにして防御する。


「がふっ」


 防御したと同時に全身を衝撃が駆け抜けていき身体がダメージを受けたことを理解する。


 内臓が大きく傷ついたのか口から血が溢れる。


「ほんと付与はわかりづらいな……」

「触れた物から波動を流し込んでダメージを与えるの。そして……」

「っ!」

「こうやって拘束もできる」


 咲希の拳を防御したままの姿勢から動くことが出来ない。それを自覚させられた直後全身に衝撃が走る。


 咲希は右手を波動に使っているが左手は残っている。その手が煌めき俺の身体を一切の隙も作らず殴り続ける。


「このまま殺してあげる!!」


 一撃貰う事に全身に衝撃が流れ、波動によってダメージを受けた部位が崩れていく。


 崩れた傍から自動発動の《改造》が修復するもその次の瞬間にはまた崩されている。


 ずっと咲希に投擲している武器も全て咲希の魔弾と拳に破壊されてダメージにもなっていない。


「……改造……オフ……」


 反撃の手立てを考える。幸いにもこのままでは死ぬことはない。咲希が止めを刺してこない限りは。


 止めを放たれる前に俺はついさっき封印から目覚めさせた1を起動する。


「《生命アビエス》!!」


 瞬間俺と咲希の間に巨大な植物が生える。それはそのまま成長し壁となる。さらに無数の植物や動物が生まれ咲希へと殺到する。


「っ……!纏めて処理してあげる」


 咲希が距離を取ったのを確認して俺は回復を行う。《生命》の能力で全身を修復、さらに禁忌の間へとアクセスする。


「……いくぞ」


 全身を新たな武具が覆う。魔王としての武具が。


「《神威:破光》」


 咲希から放たれた閃光が全てを呑み込んでいく。俺はそれを正面から打ち破る。


「《桜花》」


 魔力を纏わせたその斬撃が咲希の技も先程生まれた植物も動物も全てを上下に両断する。


「《改造》」


 咲希の足元の空間を氷に変えて一瞬動きを止める、同時に周辺に爆発魔術を起動して攻撃と同時に視界を塞ぐ。


 俺は大きく飛び上がってさらに魔術を起動する。


「全砲門臨界……照準完了……改造、複製完了」


 爆発が起き咲希を飲み込む。


「《死霊反魂砲ネクロマンスブラスト》」


 死んだ動物や植物、人間の魂を直接魔力に変換して放つ魔術。それが死霊反魂砲。


 消費した魂の量によっては簡単に街を飲み込むほどの大きさと威力を持つそれを限界まで圧縮し、複数放つことで確実に咲希を殺しにいく。


 それでも不安なので改造で着弾時にあるものを撒き散らすようにしている。


 発射時の轟音が止み魔術の光が落ち着いた頃には地上は瘴気に満ちていた。


「……ごほっごほっ、瘴気を撒き散らすとか酷いね」

「直撃して生きてるのかよ」

「これぐらいはね……さて、ここからは私も本気でいくよ……」


 咲希の全身を神々しいオーラが包み込む。それはあっさりと瘴気を浄化して傷も治していき、そして咲希の身体が作り変わっていく。


「《神核励起》———」


「———《神力解放》」


 咲希の服装が神話の神のような服装へと変わる。白を基調としたドレスの様だが全て神力で構成されていてまず普通の攻撃は通らないだろう。


 そして髪色も変わっていく。徐々に銀へと変わっていき、ひと房だけ赤色になって変化が終わる。


 目の色も右目は金に変わり一目で人ではない、超常の存在だと自覚させられる。


 その時間は隙だらけだったのに俺はつい見惚れてしまい攻撃を忘れていた。


「《ひれ伏せ》」


 鈴のように綺麗で透き通った声が響く。


 それは圧倒的な力を秘めていて空中にいた俺は地面に叩き落とされる。


「がっ……!」

「《爆ぜろ》」


 膝と肘から爆発が起き四肢が破壊される。修復しようとするが上手く機能しない。神力による攻撃だからだろう、簡単に治すことは出来ない。


「これで終わり…………《死んで》」


 咲希の言葉が脳に響き俺の思考は黒く染まった。

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