いざ魔王城へ
俺たちが魔王国首都ヴァレリアに来てから2日経った日、公国アンドルが周辺領を占領したというニュースが入った。
一度自分の国に戻されたとしても侵攻を止めたわけじゃないしこうなるか。
自由都市は人が一切いないからともかく他の国はどうなったのだろうか。まさか全員殺したのだろうか。
そんなことを考えながらもう一つのニュースを見る。それは義勇兵の募集で参加したいものがいれば参加できるらしい、兵力は大いに越したことはないしな。
「和くんは参加するの?」
「……迷い中」
横から覗き込んできた咲希に聞かれて迷っていることを伝える。正直勇者たちと戦えるなら戦ってみたいという気持ちがある。しかし現状の俺では確実に勝てるかが怪しい。
恐らく異常なまでの速度で成長をしているであろう勇者たちに俺は勝てるだろうか。自分も成長出来ていればどうにかなるかもしれないが。
作戦開始まではまだ時間があるだろうし、それまで特訓してから判断するとこを決めて意識を切り替える。
「とりあえずしばらく特訓だな」
「特訓?」
「明日香もだけど俺もこの身体で使える許容量を増やしておきたい」
「なるほどね」
「だから……咲希、俺と殺しあってくれ」
「仮想空間の話だよね?」
「そうに決まってるだろ」
「現実でやるのかと思ったよ」
「やるわけないだろ、そうなら俺は咲希に手が出せない」
「もし私が裏切ったらどうするの、それ」
「俺はずっと咲希の味方だから。それがどんな悪の道だろうとな」
「……和くんって好きになった子を堕落させるタイプだよね」
「あたりまえだろ。好きになった人は全力で養うよ。基本好きな事だけして欲しいし」
「私の夫候補が優秀すぎる」
「それはそうとお昼ご飯食べたら特訓しようか」
「おっけー、ボコボコにしてあげるよ」
「はっ、そっちこそ簡単に負けてくれるなよ」
こうして仮想空間で咲希と特訓することが決定する。仮想空間なら全力を出しても問題ないし心置きなくやれるだろう。
「そう言えば特訓ってどこでするの?」
「ああ、言ってなかったな」
「お兄特訓するの?」
「明日香もするんだぞ」
「私もう疲れたよ……」
「午前中ずっと寝ててさっき起きたやつが何を言う」
「うっ」
「それと、特訓場所は魔王城だ」
「へ?」
「魔王城!?」
「あそこは下層は一般開放されているからな。中層、上層に入るには魔王軍に入るとか、幹部クラスだとかの理由がいるけど」
「へぇー、凄いね魔王城」
「和くんだったらどこに入れるの?」
「上層までは当然で、後は最上層の禁忌の間だな」
「禁忌の間?」
「基本は魔王を継承する際に入る部屋だ。まぁそれ以外の使い道もあるけどな」
禁忌の間には俺の武具ともう一つの能力が保管されている。武具は俺の専用装備で本気を出す時とかにはそこから呼び出すことになる。
「ふーん、それで今から魔王城行くの?」
「おう」
「結構遠くない?」
「転移使うからすぐ行けるぞ」
「そんな堂々使えるの?」
「近くに転移門があるからそれ使う」
「……ここ発展しすぎじゃない?」
広い都市には転移門は普通だと思うけどな。この都市のデカさ半端じゃないし。
まず地球との総面積の差があるから比べるのもおかしいが魔王国の大きさは地球でいうと北アメリカ大陸ぐらいの大きさがある。これでも世界の十分の一程だ。そして残った所に国や都市を入れると七割埋まる。
残った三割は未開拓領域である。尋常ではない強さの魔物が跋扈している、自然現象が敵となり侵入すらさせてくれない。こんな感じで開拓出来ていない場所が多い。
そんなことを考えながら身支度をして宿を出る。そして大通りを歩いて転移門に着く。
「ここが転移門だな」
「どうやって使うの?」
「行き先選んで起動して入る」
「どっかのピンクのドアみたい」
「イメージはそんな感じだな」
今回は俺がいるのでぱぱっと操作して転移門を起動して中に入る。二人も恐る恐ると言った感じで着いてきてくれた。
転移によって見えなかった視界が開け、目の前にあったのは巨大な城だった。
「……これが」
「そう、魔王城だ」
「大きすぎない?」
「この世界の建築は魔術が使えるからな。こう言った大きさにもなる」
周囲を見ながら城の入り口に近づいていく。魔王城の周囲は庭園のようになっていて観光スポットのような感じだ。だいたいいつも数組のカップルがいる。
城の扉を潜り中に入る。そしてそのまま受け付けを向かおうとすると正面から見知った奴が歩いてくる。
「自由都市にて手合わせをした和樹くんですね」
「お久しぶり?ですね、アルスさん」
「ええ、少し着いてきて貰っても?」
「わかりました」
周囲から好機の視線を浴びながら俺たちはアルスについて行く。今回は自由都市と違い魔王国なので話し方には気を付ける。
「今日はどんな用事で?」
「訓練所を借りたかったんだ」
「なるほど、では後で申請をしておきますね」
「ありがとう」
奥の方へと歩き続ける。そして見えてきたのは一つの扉だ。確かあの部屋は……
「この部屋で上層へと転移します。少しお待ちを」
「えっ!?」
「入ってもいいんですか?」
「魔王様のお連れですから。それに今は魔王様に働いて貰う必要があるのです」
「まだ働きたくないけど」
「今の状況でそんなことを言うおつもりですか?」
「冗談だよ、転生の目的は達成してるし少しなら働くさ」
「転生の目的?」
「咲希たちにはまだ言ってなかったな。まぁ今度話すよ」
「ふーん」
そうしているうちにアルスが部屋の装置を起動して上層へと転移する。ここからは幹部クラスや認められた人物しか入れない特別な場所だ。
「既に会議室にて集合しております」
「了解」
部屋を出ると同時に俺は自分の服装を能力で変える。魔王時代のそのままという訳にはいかないので、それをベースにして少々弄ったものだ。
「和くんカッコイイね」
「お兄が一気に魔王様になった……」
「お二人は私に着いてきて下さい。一度別の部屋にてお待ちいただきます」
「二人とも、アルスは信頼していいから大丈夫だ」
「わかった」
そこで二人と別れ俺は一人会議室への道を歩く。一歩進む事に魔王時代の感覚が戻ってくる。見えてきた会議室の扉を両手で開き俺は部屋に入る。
席に座る幹部達の視線は驚きが含まれていて知っているのはやはり実際にあったアルスやエキドナぐらいなのだろうと理解する。
「魔王ヴァレリア、ここに帰還した」
その言葉に俺以外の全員が頭を下げ忠誠を示す。
「さて、早速始めようか。今回のは些か面倒そうだからな」
ーー咲希ーー
和くんと別れてアルスさんに着いていって着いた部屋は日本のスイートルームもビックリな部屋だった。恐らく魔術と高度な技術で形成されている。ただどこか生活感というか、誰かがいた形跡がある。
「ここは魔王様のお部屋です」
「和くんの?」
「はい」
そう言って紅茶とお菓子を出してくれる。これもすっごく美味しい。
「ここに連れてきた理由は?」
「以前魔王様の写真、というものをくれましたね」
「そうなの!?」
「明日香ちゃんは知らないよね」
私はその時のことを説明する。
「なるほどねー」
「そのお返しをするのにこの場が適している、と思ったので」
「ご飯の奢りじゃないんだ」
「それは今から出すお茶菓子と映像で許して下さい」
「別にこだわりはないからいいけどね」
「ありがとうございます。さて今から見せる映像は魔王様非公式ファンクラブが作ったものです」
「……この世界にファンクラブが存在するんだ」
「作ったのは貴方たちの同郷の方ですよ。彼女のよく言う言葉は魔王様マジ一生推せる、です」
「オタクだあ」
「彼女の映像を撮る技術、その編集技術には毎度驚かされています。恐らくあなた方も満足出来るものが見れるでしょう」
「そんなに上手なの?」
「彼女は独自の魔法を創り上げるぐらいの努力をしたいましたから」
「魔法!」
明日香ちゃんが驚いた声を上げる。私だってちょっと驚きが隠せない。
「まぁ話していても時間がもったいないので映像を流しますね。要所で私が解説を入れますので」
部屋が暗くなり壁に映像が映し出される。私たちはその映像に見入って、和くんが帰ってくるまでずっとハイテンションのままだった。
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