情報収集
勇者達が来た日の夜。俺たちはとりあえず集めれる情報を集め終わって報告し合っていた。
「見えた勇者の数は十二人で召喚した時にいた王女様が一人。後は魔女っぽい見た目の女の人が一人だったよ」
「俺の方は特になしだな。街の人がなにか言ってることはなかった」
「私もほぼなし。強いて言うならその魔女っぽい人が怖いとかは言われてた」
「魔女っぽい人ねぇ……」
魔王時代の記憶を漁ってみてもそんな見た目のやつはいくらでもいるからさっぱり検討もつかない。
「……百七十年か」
「それは驚きだったね」
「地形がほぼ変わってなかったのは幸運だったよ」
今までまともに情報収集をしていなかったため気づかなったこの世界の時間にようやく気づいたのだ。俺が転生して向こうで暮らしていた十七年の間にこちらは百七十年経っていたらしい。
召喚された王国、今いる自由都市、その周辺の地形。それらがほぼ変わっていなかった為気づけなかったがこの問題は多くの不安を残す。
この時間の差で世界の基本の知識が変わっていて俺たちとの差異が生まれた場合それが致命的になることだってあるのだ。
「とにかくこの世界のことを知らなきゃな」
「お兄の魔術でどうにかならないの?」
「そんなものが使えるならとっくに使ってるよ」
「咲希お姉ちゃんは?」
「私は使えないよ、和くんみたいに魔術を知ってるわけじゃないし」
「俺は魔力がどうにかなればできるが……」
「私たちまだ成長しきってないもんね」
「そうなんだよなぁ」
俺と咲希は肉体の成長とともに能力なりが解放されていくようになっている。最低でも二十歳になっていればほぼ全ての力を使えたのだろうが残念なことに後三年足りない。
「とりあえず今日はもう寝るか?結構動いたし疲れたろ?」
「私はくたくたー……」
「私はもうちょっと起きるかな」
「んじゃ明日香は先に寝ときな」
「そうする、おやすみ〜」
「おやすみ」
宿の寝室へと明日香が消える。元々二部屋もある宿では無かったがこの一週間で気づけばかなりランクの高い宿に泊まることなってしまった。
原因は主にアイドル化された咲希と明日香のせい。金もギルド持ちとかいう高待遇だったので甘えることにしたし。
「それでどうする和くん?」
「行ってみるか、勇者のとこ」
「行こ」
「よし」
明日香が起きないように熟睡したのを確認してから出発する。今の時間は午後十時。勇者たちも起きているか怪しいが潜入には十分な時間だろう。念のため明日香のいる寝室には結界を張っておく。
お互い自分の技で隠蔽を施して見つからないように夜の街を駆ける。屋根の上を飛ぶように走り目標の勇者たちが泊まる宿へと行く。
王女もいる勇者一行の宿はこの都市で最高級の宿でその最上階を独占しているらしい。まぁお金もあるし安全面を考えるなら当然だろう。
僅か一分程で俺たちはその宿の屋根の上に到着して潜入場所を探す。
「どこがいいかな……っと」
魔力を使って建物を捜索する。
「……ん?人がいない?」
「どしたの?」
「いや、どの部屋にも人がいなくて……いた」
最上階の1一番奥の部屋であるホールに勇者一行は集まっていた。配置からして王女と例の魔女が勇者たちになにか話しているらしい。
ちょっと話を盗み聞きすることにする。
『この都市で勇者様にしてもらうことは──』
どうやらちょうど本題に入るところらしい。
「いいタイミングだったね」
「ああ」
『この都市の破壊でございます』
「は?」
「え?」
『王女様の言う通りよ、この都市は魔王の影響を強く受けている。だから都市も人も全て破壊して、殺すのです』
魔女から声が発せられる。声色的にはかなり若い女の人という感じだ。
『ロザリン様の言う通りです。勇者様方には明日の晩に行動を開始して貰います』
『私が結界を張るので一人残さず殺して下さいね?』
『はっ!!』
勇者たちの声が響く。俺はすぐにこの後の対応を考える。この勇者たちを止めるか、それとも明日香を連れてこの都市から逃げるか。
「和くん、なんで勇者は十二人しかいないのかな?」
「精鋭を連れてきたとか……いや、殺すなら人数は多い方がいいし……」
様々な考えが頭をよぎる。そして一つの最悪に辿り着く。
「あの王国からいける都市、国で魔王の管理地はいくつある……?」
勇者が召喚された公国アンドルから行ける国、都市は合計五つ。そのうち魔王の庇護下の国、都市はここ自由都市パネラを含んだ三つ。
「こっちに来てるのを精鋭と仮定して……」
「どうしたの??」
「ちょっと待ってくれ」
精鋭とするなら恐らく全員がユニークの能力持ち。残った約八十人は半分に別れて残りの都市を襲うのだろう。これ守りきれるか?直ぐに伝えた方がよさそうだな。
「咲希、多分だけどこいつらの目的は人の魂を喰らうことだ」
「なるほど。そうすれば簡単に強くなれるもんね」
「だから早めに対処しなきゃ不味い」
「ここはともかく他の都市はどうするの?」
「魔王軍のやつを呼べば直ぐに対応してくれるはずだ」
誰がいるか知らんが恐らく俺たちを見ているやつがいるだろう。
「エキドナ、いるか」
「呼んだ?魔王様」
「ああ、ちょっと頼みごとだ」
「ええ」
「この勇者共の企みを潰しといてくれ」
「わかったわ。ちなみに既に他の都市は対処中よ。随分着くのが早かった見たいだし」
「助かる」
「ここはどうするの?避難だけでもさせる?」
「そうだな。そうしてくれ」
「わかったわ」
これですぐにこの都市から勇者たち以外がいなくなるだろう。
「ついでに魔王様もどこかに送ってあげようか?」
「最後にな」
「じゃあそれまでに決めといてね」
「あいよ」
エキドナがどこかに消えて咲希と二人きりになる。その瞬間だった。周りの景色が一変して俺たちはどこかの室内に送られる。
「おっ」
「わっ!」
直ぐにお互いを庇うように警戒をする。そしてその目に飛び込んできたのは勇者と王女。そして例の魔女の女だ。
「盗み聞きとは感心しませんね」
「街を滅ぼす計画立ててる方がどうかと思うけど。なぁ王女様?」
勇者たちの反応がどこかおかしい。いなくなったはずの俺たちがいるのに一切の反応がないどころか無関心を貫かれている。
「貴様らの名前を聞かせてもらおうか」
「俺の国だと先にそっちが名乗るんだよ、魔女っぽい人」
「ふっ、いいだろう」
フードを取って魔杖を召喚して王女よりも少し前にでる。
「私の名前はロザリン。魔王などという悪しき存在からこの世界を救う者だ」
「救う者ねぇ……組織じゃないのか?」
「貴様にそれを言うとでも?」
「そりゃそうか」
「では貴様らの名を言え、わざわざこちらが名乗ったのだ」
「んなことするわけ……やるぞ」
「もちろん」
「なにをする気だ!」
咲希と手を絡ませて意識を深く繋げる。
「《消し飛べ》!!」
基本は咲希の言霊でそこに俺の能力を加える。効果は俺次第。例え咲希が消し飛べと言っても俺が効果を変えれば全く違うものが発動するのだ。
今回はただの発光魔術、言葉はただビビらせるためのものだ。効果は十秒間の発光、ちょっと目が見えなくなるぐらいで直ぐに回復もする。その間に俺たちは転移で宿から大きく離れた建物の屋根の上に跳ぶ。
「エキドナ!」
「ええ!」
直ぐに部下の名を叫ぶ。意を汲んだエキドナが大規模の転移魔術を発動。
白く染まった視界が戻り転移が完了すると腕の中に明日香がいた。しかもぐっすり眠ったままで。
「敵は?」
「公国に返したわよ、抵抗しようと魔術を使ってたけど私の前では無意味ね」
「流石だ」
「けど住民の転移は必要あったの?敵だけでよかったと思うけど」
「念の為だよ、それにどうせ必要になるし」
「それもそうね、とりあえず今回の敵がイベントで済ませていいことじゃないのはわかったわ」
「そうだな」
「じゃあ私は戻るから。なにかあったらまた呼んで」
「りょーかい」
エキドナが転移を使ってどこかに消える。
「とりあえず俺たちも移動しようか」
「そうだね、まずここはどこ?」
「ここ?魔王のお膝元」
「へ?」
「ようこそ、首都ヴァレリアへ」
「え?」
勇者たちから転移で逃げた先は俺の国その首都ヴァレリアだ。そのことを知った咲希の声が響き、明日香が僅かに身動ぎした。……流石にちょっとぐらい起きようとしてくれませんか。
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