ポーション作り


 シャドウウルフの一件がある程度落ち着いた頃俺たちはこの世界ならではのことを楽しもうとしていた。


 それは調合である。ポーションを始めとした様々な道具を作ったりする調合。日本では理科の授業なんかでしかやらないことだがこの世界は普通にできる。


 ということでこの一週間ポーション作りの為の素材集めや倒しやすい魔物討伐なんかをしていた。


「さて……やるか!」

「「おー!」」


 調合をするのはギルドが提供しているスペースで道具も何もかもギルドの物を借りて行う。こういうシステムを作った当時の俺や幹部達ほんと優秀。


 ちらほらとこちらに向く視線は基本咲希と明日香に向けられたもので、僅か一週間にして二人はこのギルドのアイドル的存在となっていた。


 まぁ咲希のぶっ壊れ具合や明日香のチートっぷりもそこそこに影響しているが。


「んじゃまずは一般的な回復のポーションだな」

「正式名称はないの?」

「回復のポーションだ」

「まんまだね」

「この辺は凝っても仕方ないし、難しくて緊急時に伝わらなかったらダメだしな」

「そっか」

「そ。んで素材は回復効果のある薬草と魔力を込めた水だけだ」

「簡単だね」

「昔はもっと複雑だったんだぞ」

「お兄この世界だとたまに老害みたいになるよね」

「ぐふっ」


 明日香からの言葉の矢がガッツリ刺さってダメージを受けるがどうにか持ちこらえてポーション作りに専念する……いやちょっと耐えれないかもしれない。


「手順は薬草をすり潰して、沸騰させた魔力水に溶かす。んで適度に混ぜる。これだけだ」

「すっごい簡単」

「ちなみに昔はどうだったの?」

「これ以外にも素材が複数あって、道具も沢山あって一 個作るのに一時間かかってた。その代わり効果は死んでない限り完全復活だったけどな」

「なにそのチートポーション」

「よくあるエリクサー的なやつだよ」

「あー……」

「それは世間に疎い私でもわかるかも」

「自分で疎いとかいいますか」

「箱入り娘だったからね」

「普通の箱入り娘は幼少期に家を抜け出して所有してる山の木をグーパンて倒したりしないと思います」

「……あれは悲しい事故だったね」


 薬草をすり潰しながら昔話に耽る。


 咲希がやからしたことのひとつに五歳の時に俺と一緒家をに抜け出して山に侵入して木を殴り倒した、というものがある。動物の仕業ということになったが流石にこいつも転生者だったりするのか!?と疑ったりした。実際はもっと突飛なかったが。


「すり潰したらこの鍋に入れたらいいんだよね?」

「おう」


 沸騰した魔力水にすり潰した薬草をいれてゆっくりとかき混ぜる。


 魔力水は名の通り魔力の溶けた水のことで、作り方は普通の水に魔力を流すが水魔術で生成するかだ。圧倒的に後者が楽なので水魔術が使える者はこれだけでそういう職に採用されることがある。


 ほかの元素では火は食堂やらで重宝されるし、風は探索などで使われる。空気の流れで地図を作ったり洞窟のなかでも安全に酸素を確保したりなどだ。地は建築や採掘などだ。


「おー、色が緑になってきた」

「ほんとだー……って咲希お姉ちゃんのと私のちょっと違う?」

「それが効果の違いだな」

「どうだといいの?」

「色がより濃い方が効果も大きい」

「つまり明日香ちゃんの方が効果が低いと」

「明日香は多分雑に混ぜすぎたな」

「えっ!?結構普通にやってたと思うけど……」

「慣れだな、普段から料理してるかしてないかの差が出てるぞ」

「明日香ちゃんは料理しないもんねー」

「だって全部置お母さんがやってくれてたんだもん……」

「私もお世話されたいなぁ」

「全部お世話してくれる生活はいいよー」

「明日香ちゃんずるいな~」


 ポーションが出来上がって直ぐに二人とも気を逸らして女子特有の無限トークになっていく。ほんとなんでそんなに話が続くんだが。


 それに取り残された俺はポーションを試験管のようなガラスの瓶に規定量まで注ぎコルクで蓋をしていく。ここは完全に理科の授業である。


「これは後で売るとして……二人ともー、次の作るぞー」

「「はーい」」


 次は何を作ろうかと残った素材を見て思案しているとギルドにドタドタと慌ただしい足音が響く。


「おい!勇者様達が来たってよ!」

「え!?ほんと!私見たーい!」

「俺もー!」


 その言葉に俺たちは固まる。危うく作ったポーションを落としかけた程だ。


「和くん……どうする?」

「とりあえずなるべく接触しない方向で。特に明日香は気をつけろ」

「なんで会っちゃいけないの?」

「……説明をしてなかったな。再三言ってるけどこの世界では勇者は悪だ。なんせ争いがないのにわざわざ争いを生む存在だからな」

「うん」

「俺たちがそれと関係あると知られてみろ、確実に今まで通りにはいけなくなる」

「具体的には?」

「基本街に入れないしまともに街で生活なんて出来ない」

「じゃあ勇者達はなんでここに来たの?」

「多分召喚した王国の王子とか王女がいるはずだ。名目はそれに従う騎士とかでな」

「なるほど……」

「和くん、一つ疑問なんだけどこの世界って勇者は自然発生するの?」

「自然発生って……」


 もっとこう普通に産まれるの?とか無かったのだろうか。


「……発生はする。したからと言ってこの世界で産まれたなら別に嫌われることもない。普通に騎士とかになるよ」

「いい世界だねー」

「二億年も支配すればこうなる」

「「二億!?」」

「あれ、言ってなかったっけ?」

「長い間としか聞いてないよ」

「私も」

「すまんすまん」

「お兄今度詳しく説明して貰うからね」

「私も教えてくれないと拗ねるよ」

「わかった。とりあえず宿に戻ろうか」

「このままで大丈夫かな?」

「裏道を使えば大丈夫だろ」

「そうだね」


 とりあえず作ったポーションをバッグに閉まってギルドの裏口から出る。そのまま街の裏道を通って宿に戻る。


「ふぅー……」

「なんか私たちの方が悪者みたいだね」

「お兄この生活大丈夫?」

「大丈夫じゃないな……」

「さっさと遠出したいが……留まり過ぎたな」

「変な魔物のこともあったし今回は仕方ないよ」

「予定を色々考えないとな」

「というか勇者ってすっごい殺されたんだっけ?」

「そういえば言ってたな」


 勇者の多くが選別された話は聞いている。一体誰が残ったのかなんかがちょっと気になるな。特に明日香が気にしているだろう。


 俺と咲希は簡単に割り切るどころか既に興味も失せているから大丈夫だか明日香は友達とかが心配なんじゃないだろうか。


「どうする?明日香の友達とかでも確認しとくか?」

「え?別にいいよ?」

「え?」

「ん?」

「……心配だったりしないか?」

「ん〜、特にかな。私はお兄と咲希お姉ちゃんがいればいいし」

「明日香意外と薄情なのか?」

「お兄譲りだと思うよ?」

「俺のせいなの?」

「確かに和くんたまに感情の消えてる目とか顔してたもんね」

「あれ見てたらなんか私も影響されちゃったし」

「……それはすまん」

「いいよ、お陰で今が楽だし」


 明日香に自分が思ったより影響を及ぼしていることに驚いたがこれならある程度の予定が組める。まぁ勇者の観察はするが。


「とりあえず今日は宿に籠るか」

「だね、なにか出来ることあるかな?」

「こういう時は明日香の特訓って決まってるだろ」

「やっぱりそうなるんだね……」

「明日香ちゃん頑張れー」


 暇な時間は明日香の特訓というこの一週間で出来た習慣に俺たちは移り一度勇者達のことは意識から取り除いた。

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